汝、隣人を愛せよ



 「他人ですよ。赤の他人です」

 骸君は私との関係性を問われた時、いつもそう答える。何故だかいつも楽しそうに微笑んで、私との間にしっかりとした境界線を引いていくのだ。
 一度ちょっと反抗してみたくなって、手駒にすらしてくれないのか、と聞いてみたら「いりません。君、大して戦えないでしょう」とこちらを見ることすらなく一蹴されてしまった。まあそうだけど。
 友達になれるなんて思っていない。そもそも骸君に"友達"だなんて言葉を結びつけるのは、どうにも違和感がある。それでもこうして明確に枠の外に置かれると、寂しいような気がしないでもない。その割に、度々茶々を入れてくるというか、完全に放っておいてもくれないからどうしていいか分からなくなる。
 骸君とどうなりたいのか、自分でも不明確だ。分かったところで赤の他人にはどうにもなれやしないのだから、意味の無いことなんだけど。ついついため息を吐いてしまう。何も分からないのに、妙に心が重くなった。

 

 「赤の他人ですが、それが何か」

 気になってたんだけど、と口火を切った沢田君に私との関係を問われた骸君は、いつも通りそう答える。迷いなく、にべもなく。もう慣れてしまった私は、同調するでも否定するでもなく、ただぼけっと沢田君を見ていた。

 「他人……?赤の……?他人……?」
 「何か不満でも?まあ、君に不満がられようが関係のないことですが」
 「いや、不満っていうか……う〜〜ん……?」

 煮え切らない反応をする沢田君は、どうやらしっくりきていないみたいだ。上手く言語化できない様子の彼の肩に乗るリボーン君は、ニヤリと口角を上げて私に話を投げかけてきた。

 「お前も苦労するな」
 「えっ、苦労は別にしてないけど……」

 そう、苦労はしていないのだ。骸君が私を他人と称したって、私に危険が降りかかるとか、特別不都合があるとかでは無いのだから。ただ少しだけ、私が勝手に寂しい気がするだけ。リボーン君はそんな私の返答をどう捉えたのか、ニヤリと笑いながら続ける。

 「骸はお前が"赤の他人"じゃないと都合が悪いみてえだ。黒曜の連中じゃあ、踏み込み過ぎてなり得ない。赤の他人にしかなれない関係があるからな」
 「「???」」

 小さな口から紡がれる言葉は随分と難しくて、沢田君と揃って首を傾げた。リボーン君は、骸君をちらりと見て続ける。

 「自分自身にどんだけ情を傾けようが、名のある関係には発展できねえだろ?」
 「……それは、」
 「クフフ、お喋りが過ぎますよ」

 リボーン君が詳しく話してくれる前に、骸君が遮ってきた。いつものように口角は上がっているが、ちょっとだけピリついている、かもしれない。あと少しで何かが掴めるかもしれなかったが、骸君の機嫌を損ねたら損ねたで面倒だ。

 「何にも伝わってねえみてーだから、助け舟を出してやったんだ」
 「余計なお世話です」
 「後々後悔しても知らねえぞ。お前らが赤の他人のまま終わろうが、お前の言う通り『オレ達には関係ないこと』だからな」

 リボーン君と骸君の間に、妙な空気が漂う。私も一応話の当事者のはずなのだが、びっくりするほど置いてけぼりだ。

 「沢田君、意味分かった?」
 「いや、オレはあんまり……」
 「だよね、私もよく分かんなくて」

 沢田君にこそりと聞いてみたが、私と同様に首を横に振るばかりだった。ど、どうしようかなこの状況。謎の睨み合い(?)を続けているリボーン君と骸君をどうしたものかと見ていたら、骸君がため息をついて踵を返し始めた。

 「……帰ります。君と口論するのは骨が折れる。ほら、行きますよ」
 「え、ちょ、待って待って。……今の、私の為に言い争ってました?」
 「黙りなさい」

 慌てて骸君の後を追う。何にも分かっていないが、へらっと笑ってコミカルに収めてみようとそう口を出したら、骸君に秒で切り捨てられた。私、この話題の当事者だったんじゃないの?





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