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初恋というのはいつまで経っても色褪せない物らしい。‥というのを、この間雑誌の記事で読んだ。ああ、確かにそうかもな。だって小学校の時の初恋まだ覚えてるし。そんな中高校生になって1番仲の良い隣の友達は、先月からバレーボール部の男の子と付き合い出していた。つまり今私は、そんな友達に誘われて、彼氏君の練習試合を見にきている。

「相手どこの高校だっけ?」
「烏野高校だって。前までは強豪だったらしいけど、今はそうでもないって」
「ふうん」

とは言え、別に私達の高校も強い訳ではないと思うが。そんなことを口に出す訳にもいかず、適当に相槌を打って目の前の試合を見ることに集中した。

烏野高校。その名前に違わずユニフォームは黒かった。周りの選手も心無しかタチ悪そうな顔付きをしている人が1人、2人。‥‥こわ。そうして数分後、色の違う元気の良い男の子がコートに足を踏み入れているのが見えた。バレーボールの選手にしては小ちゃい子だなあ。いや、男子の平均からしても小ちゃいんだとは思うんだけれど。そうしてオレンジに光る彼をじっと見つめていると、ふと誰かに似ているような気がして何度か瞬きをした。‥いや、思い出せない。思い出せないけれど、いややっぱり‥‥誰かに似ているのだ。誰だったかなあ‥

「うわっ」

バシン!!!と、一瞬凄い音が響いた。それがアタックをした瞬間だと分かった時には、ボールは既に烏野高校のコートの床へと落ちる所だったから、相当なスピードで打ち込まれたんだと思う。いや、あれは流石にとれないでしょ。コートの後ろ、ラインの手前くらい。あんなの追いつける訳ないし。

‥そう思っていたのに。

一際目立つオレンジ色に身を包んだ彼は既に走っていたのだ、コートの後ろまで、全速力で。追いつける訳ないのになんでそんなに必死になってんの?馬鹿にしてる訳じゃない、私は自分なりの事実を思っているだけ。絶対無理、できる訳ない。‥そう勝手に結論付けしていたら、彼の腕はギリギリボールに届いて、高く上に上がっていた。すごい‥‥カッコいいなあ‥‥。

あれ‥?

「できないとかいうな!俺も一緒にやってやるから!」

その瞬間に突然脳裏に蘇ったのは、小学校の頃クラスが一緒だった、私と身長が同じくらいの小さな少年。つまりは、私の初恋だった人だ。ああ!という大きな声は出なかったけど、その代わりに少しだけ眠かったのが覚醒した。な、なんで烏野高校に、なんという偶然!そんなことを考えていたが、いや待てよ、他人の空似なんじゃないかと落ち着きを取り戻す。そうだ、日本男子なんて35億もいるんだから。

「ナイス西谷ァ!!!」

確か、初恋の彼は西谷夕君だったなあ。過去の記憶を遡っていると、今度はコートから聞き覚えのある名前を呼ぶ声。ちょっと、待って‥‥にし、のや?西谷?

「夕、君‥?」

聞こえる筈がないのに、その声に反応したように西谷君が一瞬こちらを見た気がした。隣の友達は気付いていないのに、何故。驚いたように大きな目を丸くしたと思ったら、ホイッスルの音で直ぐにコートへと視線が戻っていく。あれ、見たよね。私のこと見て、気付いたんだよね‥?

「今の凄くない?!あんなの触っちゃうの!?‥え、ナマエ、どしたの、」

なんか挙動不審だけど。そんな声に慌てて我に返ると、なんでもないと顔の前で手を振った。どうしよう、こんなことって‥‥‥あるの?


***


22-25、20-25、19-25。つまりは全部私の通う高校が勝ち越して、烏野高校は潔いまでに敗北した。あんなに必死に駆け回ってたのにと、応援していたのは烏野高校じゃなかったけれどとても残念だった。それは多分、夕君がいると分かってしまったからだろうけど。

お手洗いに行ってしまった友達が中々戻ってこないのでそっと様子を見に行けば、そこには友達とその彼氏がいて。おめでとう。多分そう言いに向かったんだろうと見当がついた。なんだか帰るに帰れないなあと階段に足をかけた所で上から気配。

「‥‥あ、」

夕君だ。坊主の怖い人と一緒だけど、夕君がこっちに降りてきている。まずい、どうしよう。いやでも、別に逃げる必要とかないもんな。向こうが気付いたら軽く声をかけるくらいでいいじゃないか。

「あっ!!」
「ひっ」

ぴしゃり。あまり見ないようにしていたのだが、突然の大声に振り向くと夕君に指を差されていた。あっ、て。見覚えがあるけど名前を覚えていないとかそういう感じだろうか。‥大いに有り得る。私から声をかけるべきだろうかと迷いに迷っていたが、微妙な沈黙を破ったのはもう1人の坊主君だった。

「ノヤッさん‥こちらの女子と、お知り合いですか‥」
「お前ナマエだろ!」
「呼び捨てだとォ!!?聞いてねえぞコラ!ノヤッさん許されねえ‥!!」
「ひっさしぶりだな!」

ニカッ!と太陽みたいに笑った夕君と隣の坊主君に、小さく私もお辞儀をした。やっぱり覚えててくれてたんだと嬉しくなって、ついぶんっと縦に首を振る。夕君、初めて会った時から全く変わってないや。

「あれ?つかなんでここにいんだ?」
「あ、烏野の相手校、私が通ってる高校で応援に‥」
「まじか〜‥!!!!クッソ、カッコ悪いとこ見られちまったなー!!!」
「そんなことない!!夕君、遠くのボールに飛び付いて凄くかっこ、よ、かった‥‥です、けど‥」
「あ、そうか?‥そうか!?いやでもな、あんなんじゃ満足できねえし、次はもっと取るぜ!!」
「そ、そっか」
「西谷、田中!集合だぞ!」
「ウィッス!!」

ああそっか。彼等はまだ選手なんだ、私に構っている暇はない。じゃあ行くねとひらりと手を振ると、ピキンと硬直した坊主君は何故か固まりながら私に敬礼を1つ。

「今度は俺の応援に来いよな!!」

そうして夕君は、また太陽みたいに笑った。俺の応援に?いや、なんでよ。ついツッコミそうになったけれど、それは叶わなかったのだ。ほら、‥多分、惚れた弱味ってやつ。

「あ!ナマエごめーん!お待たせ‥‥え、ちょっ、顔赤ッ!!なに!?どした!?」

何も変わらない、眩しいままの夕君にドキドキが止まらない。うるさい、ちょっとほっといて。そして私を試合に誘ってくれてありがとう。これからは烏野高校の応援に行くことにします。ほら、だってもうこれ運命じゃない?2度目の恋も初恋の彼に惹かれたのだから。

2017.09.28