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何度も考えたことはある。幾度となく仕掛けようとしたこともある。けど、やっぱ好きすぎる、という故かこいつには結局勝てなくて。なんも分かってねえ笑顔とか天真爛漫さというか、そういう所に惹かれたのはもちろん否定しねえけど、そうか、これが可愛さ余って憎さ100倍ってやつか。‥‥っていうのを、今考えていたりする。

「黒尾先輩?」

ぱちくりとした目を俺に向けて上目遣い。そうしてきょとんとした顔で首を傾げる姿に俺の脳内大暴走。マジ"きょとーん?"じゃねえよ。まずはその豊満な乳を隠す努力をしてくれと心の中で叫びながら生唾をこくりと飲み込んだ。

「頭痛いですか?あっ、バファリンありますよ!」
「頭っつーか違う所がいてーわ‥」

今日は祝日で部活もなくて、高校生にしては珍しく1人暮しをしている俺の彼女、ナマエの住んでる家に、久しぶりに足を踏み入れている。それで何かを想像しない男がいるならそいつは男ではない。そして、何かを期待しない女がいる訳もない。‥と、思っていたのだ。少し前までの俺は。

「そういえば先輩、この間言ってたふわっふわのパンケーキ覚えてます?」
「雑誌のやつ?」
「そうです!昨日作ってみたんですよ〜。そしたら案外味が良くて!」
「何?もしかして俺のあんの?」
「あ、‥あまりにも美味しかったから自分で全部食べてしまいました‥」
「いやいやナマエちゃん?その流れは俺の分がある流れだったよな?」

俺の座り込んだ股の間に自分の体を埋めるナマエの頭をぐしゃぐしゃに掻き回して、えへへすみませんなんて苦笑いする顔にさえぐっとくるものがある。そんな1個下のナマエは、俺の学年でも有名な女の子だった。何が有名かって、主にその巨乳とギャップのある童顔がだ。1部の男子生徒に限ってはビッチなんじゃないか疑惑もあったぐらいだが、付き合ってみてこそ分かるナマエのピュアさ。おかげで8ヶ月経った今でもその柔らかいであろう大きなマシュマロにさえ触れたことがないのだ。

「あ!!私黒尾先輩と映画見たいと思って昨日DVD借りてきたんでした!何見ます?何見ます??」
「おー、何借りてきたんだ?」
「えっとですねえ、」

俺の間から抜けて、テレビ横付近の黒い袋を漁りに行くナマエへと視線を向ける。這い蹲って中身探すなよ。短いスカートからパンツ見えそうなんだけど。いや、‥もしかして俺に見せたいのか‥?何色だろうか、イメージ的には白かピンク辺りだけど、意外に黒だったりしたら俺は最高に興奮する。‥って、パンツも見る余裕がないとか俺は童貞かよ!!

「黒尾先輩?」
「わ!悪い!んで、何があるんデスカ?」
「夏にピッタリ"震撼!最恐100選"とー、"血飛沫ヒーロー(R16)"!」
「随分エグいの借りてきたな‥‥」

そんな可愛い顔して「血飛沫」とかいう単語聞きたくなかったわ‥と、思わず苦笑いが溢れてしまう。見たいんならしょうがねえなと頭を撫でると、嬉しそうに笑ったナマエはいきなりデッキにDVDを突っ込んでいた。だからパンツ見えるっつーの。

「ナマエ怖いのとか大丈夫なワケ?」
「ちょっと怖いけど、黒尾先輩いるから大丈夫!」

ちょっと怖いけど。‥なるほど、鑑賞最中に「きゃあ!」と抱き着いてくる予定でも立ててんのかとニヤニヤが出そうになって頬を引き締めた。なんだよ雰囲気作りから始めるなんて可愛い奴め。そうしてくるりと振り向いた彼女の手を取って、自分の股の間にまた座らせる。逃げられないように両腕を腹に巻き付けながら、こっそりと親指を下乳に滑らせた。弾力があるふわふわな触り心地が親指だけでも分かる。

簡単に親指が埋まる‥だと‥!!?これは‥!!!

『貴方も飲みたいの?この人の血を‥』

突然画面に現れたテロップに、思わず思考が止まる。そうして次に現れた映像は、俺の想像を遥かに超えた惨劇だった。いや。いやいやいや。これR16指定とかマジで言ってんの?そして目の前のナマエときたら、まん丸い目をしっかり開いてテレビを見ているのだ。

「黒尾先輩、これ漫画読んだことあります?」
「いや、全然‥」
「結構面白いんですよ、私電子コミックでハマって全部読んじゃったんですけど、実写版まだ見たことなくって!昨日行ったら1枚だけ残ってたからつい借りちゃったんです〜!」
「おー‥」

物凄い嬉しそうに話しているが、画面の向こうは既にさっそく血みどろ状態だ。さすが血飛沫というだけある。‥つーか怖いっつーか恐ろしいんだけど‥それを若干わくわく目で見ているナマエの姿は第2のギャップと言った所だろう。本当に怖くないのかこの子。

「展開が早いから絶対見逃しちゃダメですよ先輩!あとで感想会したいのでちゃんと見てくださいね!」

‥俺の僅かな妄想はさよならだと確信した。ナマエ、本気でこの映画を見るつもりじゃねえかよ。下乳をこっそり触っていた親指をこっそりと引くと、聞こえないようにこっそり溜息を吐いて画面に集中することにした。あー、その気になりつつあったんだけど‥まあいいか。またそのうちチャンスが来るだろ。‥いやいや、俺チャンス割と逃してね?

「グロいんですけど、ちゃんと恋愛物なんですからね!そこお間違えなく!」
「わーかったっつの」

この画面からどう恋愛描写が派生するかは疑問だらけだが、まあナマエが楽しんでいるから良しとすることにした。‥しかし俺は、ここから悶々とする恋愛ドラマが始まるなんて想像もしてなくて、また目の前の欲望と格闘することになろうとは夢にも思わなかったのである。

俺いつからこんなヘタレ童貞になったんだ。‥つーか、別に童貞じゃねーし!

2017.07.29