帝光中学。
その名を聞けば、誰もが男子バスケットの強豪校だと口を開く。全中3連覇と言えば記憶にも新しい。だが、もちろん部活動がそれだけ、という訳でもないし、男子校というわけでもない。しかし今、バスケ以外の部活動が霞むのもしょうがないのかもしれない。"キセキの世代"。それほどに注目されていた。

そして春。帝光中学の”キセキの世代”達は、各々別々の高校へと進学した。そして同時に、帝光中学に通っていた残りの生徒達も自分が決めた高校へと進学する。これは"運命"だったのかと錯覚するほどに、今まで関わりのなかった人物達が足並みを揃えてくるーーなんて、きっと誰もが思わなかっただろう。













「ねえ見て!あの子モデルの!!」
「ウッソ同じ高校!?本物めっちゃカワイー!」
「可愛いのに頭良いとか超凄くない?足長い〜!」

今月のティーン誌"CAMCAM"の表紙と見比べては、登校中の生徒が私を指差している。iPodで音楽を聴いてはいるけど、大体話している内容は分かった。なんでモデルの亜樹が、秀徳高校に、頭良かったっけ?……モデルだからって勉強してないとでも思ったかな?その考えを改め直してほしい。バカっぽいけど勉強は常に上位なんです!…と、頭の中では悪態をつきながら周りの視線から逃れ、クラス分けの用紙が張り出されている広場へと足を向けた。

「…えー、と…」

辰充(たつみ) 亜樹。モデルのたっちゃん。その名を出せば、誰もがティーン誌の売れっ子モデルだと言う。同時に「バカっぽいよね」とも言われている。心底心外。中学では、常に3位以内だった。というか万年3位だった。授業には1週間に1回は出ていたし、できない分は仕事先にも持って行った。寝る間だって惜しんだ。ただ、努力してる所は見せたくなかったから、こっそりやっていたけど。それでもやっぱり、ちゃんと授業に出ている生徒には勝てなかったということなのか。顔こそ分からないが、1位が赤司征十郎、そして2位が緑間真太郎という、名前からして男子生徒。でもそれでも負けたくなくて、レベルの高い進学校を受験した。滑り止め無し。もちろん事務所側からも学校側からも止められた。というか先生からは「お前は仕事に専念するのかと思ってたのに」と言われる始末。人の未来を想像されるのは嫌いだ。

「わっ…た、たっちゃんだ!?本物!?」
「ほ、ほそ…何食べたらそうなるの…?折れるの…?」

なんだか人がたくさん集まってきた。でも人が集まるのは、努力の証でもある。でもやっぱり、人混みは好きじゃない。さっさと自分の名前を見つけようとした矢先に、私はとある名前を先に見つけてしまった。

「緑間……真太郎…?」

中学時代、一度も抜かすことができなかった男の名前がそこにはあった。驚愕したと同時に、万年3位の称号が脳裏に蘇る。そして、嫌な予感がした。……丁度中間地点に私の名前が………ある。

「嘘…同じ、クラス……なんて…聞いてない…」

そんなの冷静に考えれば当たり前である。













「…」

席について、1人じっとドアを見つめている私は端から見たらただの危ない人なのかもしれない。だがそんなこと百も承知だ。でも興味というか、嫉妬というか、つまり緑間真太郎という人物がどんな人なのか…うん、やはり興味がある。まさにガリ勉という風貌だったら、安心するかもしれない。逆に変人だったら「なんで!」ってなるし、チャラかったら嫉妬が爆発する。なんで私は中学の時に顔だけでも確認しておかなかったんだろ。…いや、あの時はモデル業も軌道に乗せたくて必死だったから仕方がない。

「ねえ、君モデルのたっちゃんでしょ?やっぱすっごい可愛いね!アドレス交換しよ!」
「嫌」
「即答!?」
「芸能人だから繋がりたいだけでしょ。そもそも誰?」

その言葉を最後に「高飛車かよ!!」と泣きながら去って行った男へ溜息を吐いた。いかにもそういう"モデル"とか肩書きのついた物が好きそうな男だったなあ。そしてまたドアへと目を向ける。…ていうか学年2位とかだったら学校もきっちり早く来そうなものだけど…。

「…宝玉を持った龍…」
「え?」

いきなり聞こえた声に、僅かながら声が裏返る。逆隣を振り向けば、眼鏡をかけた長身の男子生徒が、私の鞄についていた龍のキーホルダーをじっと見つめていた。

2016.06.01

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