練習試合、勝ったか負けたかと問われても難しい。4セットやって、半分ずつの取り合い。つまり引き分けだった。やっぱり如月先輩のスパイクは凄い。コースギリギリに狙ってくるし、なによりも重い。中学の時よりもだいぶ重かった気がする。体格はそんなに変わってない気がするんだけどなあ。

「お疲れっス、虎侑サン!」
「ぅげっ‥黄瀬涼太、まだいたの‥」
「いやあ、思ってたよりずっとカッコよくてビビったっスよ〜」

ちょっと、こんな皆がいる所で話しかけてくるのやめてくれないかな。ずい、と距離を縮めてくる彼にまた1歩、とある程度の距離を取る。ぺらぺらとさっきの試合の感想を投げつけてくる辺り、本当に練習試合を真剣に観てくれてたんだなあと思うとなんだか感慨深いものがあった。そんな真剣に練習試合見る人そんなにいないでしょ‥解説者か。

「虎侑サンってそういえば名前‥えーっと、あ、そう、陽菜子、だっけ」
「まじか‥よく覚えてますな‥」
「オレ、これから陽菜子っちって呼ぶっス!」
「‥‥‥‥‥は?」
「陽菜子っちも俺のことなんかあだ名で呼んでほしいっスね〜。とりあえずフルネームはやめてもらって、」
「いやちょっと待って。そのたまごっち、みたいなネーミングセンスなんなの?」

滅茶苦茶ダサいんだけど。そう言ったらあからさまにガン!って上から盥を落とされたような顔をしたけど、その後すぐに「オレ、尊敬する人には〜っちって付けるんスよ〜」と告げられた。いや知るか。その〜っちのどこに尊敬の意が表れているのか問い質したい。

「おい黄瀬、そろそろ部室に戻るぞ」
「ウィッス!あ、で、オレのあだ名決まったっスか?」
「決まる訳ないじゃん!てか別になんでも‥」
「じゃあ涼太君でいっスよ〜イダッ!」
「おいコラ黄瀬ェ!!ナンパしてんじゃねえよ早く来い馬鹿野郎!!」

突如投げられたバレーボールは、見事に黄瀬涼太の後頭部にヒットしていた。バスケットボールほど重くはないけれど、全力で投げられれば絶対に痛い。結構なスピード出てたみたいだし、本人少し涙目になってるし。「ちぇー、自分だって如月サンとさっき喋ってたのにそれはカウントされないんスかねえ」とぶつくさ文句を言っているが、後ろで直属の先輩が睨んでいることにこの人は気付いているのだろうか。

「じゃあまたね、陽菜子っち」

笑顔で手を振る黄瀬涼太に、思わず引きつり笑いが出て、またね、というその言葉に少し疑問を持った。なんで次回また会うことが確定されているんだろうか。いや、彼のことだから何の気なしに溢れた言葉なんだろう。気にすることなく溜息を吐いて振り向くと、物凄い数の目が私の方に向いていた。‥怖すぎ。

「なに‥やっぱり黄瀬君と仲良かったの‥いいなあ‥」
「あんた眼鏡先輩狙いじゃなかったの!?」
「日向先輩です!!眼鏡先輩って言わないでください!」
「ほら、だからトラと黄瀬涼太になにもある訳ないって言ったじゃないですか」

どうどう、と周りをたしなめているウサギは私のことをよく分かっている。なんなら海常側からも一悶着起きそうな予感がするけど、私の性格を知る如月先輩がいるから多分大丈夫だろう。頭のネジ緩いけど。

「ていうかトラって涼太と仲良かったんだね〜。知らなかった!もしかして付き合ってるとか?」

‥如月先輩を少しでも信じた私が馬鹿だった。

2017.12.16

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