「いっや〜。このタイミングで会えるなんて思ってなかったな〜。あ、とりあえずみんな整列整列〜!誠凛の皆さんに挨拶するよ〜!」

本当に顧問に怒られてたんだろうかと不審な顔が拭えない。びしりと列になると、ずらりと並んだ海常高校のバレー部は如月先輩の声でびしっと頭を下げた。相変わらず如月先輩のチームは躾がなっているなあとぼんやりしていると、隣のウサギが無理矢理私の後頭部を押さえつけた。あ、ごめん挨拶してたんだった。

「今日はよろしくお願いします」
「こちらこそどうぞよろしく!」

ぎゅう、とキャプテン同士が握手をした時、如月先輩の手に力が込められているのが見えた。そうして何かを喋った後、少しだけひくりとこめかみを動かした我が女子バレー部のキャプテンは、何故か舌打ちをしている。怖いな。‥‥この数秒間に一体何があったというのだろうか。‥‥いや詮索するのはやめておこう。

「虎侑、ビブス」
「あ、ありがと鷹島」
「‥また帝光とか。ほんと嫌になるわ」
「ちょっと。その確執いい加減忘れない?」

ぱさりと私の肩に9のビブスを掛けた、鷹島 鈴(たかとう すず)は、嫌だ嫌だとばかりに顔を歪めている。彼女とは中学時代に対戦をしたことがあったらしいが、どうやらその時の試合が心底屈辱だったということが再会当初に判明。正直それは知るか、と言うところではあるが、もう同じチームメイトなのだ。余計な溝を掘りたくはない。

「あの人、どんな人なの」
「あー、如月先輩?実力はまあ‥海常のキャプテンでエースだから言わずもがな、でしょ。あのほっそい腕から重いスパイク決めてくるし、スパイクコースの打ち分けが凄く上手いし。唯一残念な所と言えば‥‥ああほら、頭のネジちょっと緩い感じかな‥」
「‥ふうん」

聞いといてなんだその反応は。じいっと如月先輩を見た後に、彼女は穢そうな顔をして溜息を吐いた。今回鷹島はベンチで、タイミングがあれば誰かと交代することになるだろう。そもそも去年の全中に出ていたんだから、1年とは言え相当な実力者なのは事実だ(いや私も1年だけど)。‥そんなことを考えていると、相手チームがスパイク練習をしていたボールが私の隣を通過し、思いっきり外へと飛び出していったのが見えた。うおおさすが強豪‥如月先輩じゃなくとも凄い威力だな‥

「すみませーん!大丈夫ですか!!」
「あ、はーい大丈夫ですー」

そのままなんとなく飛び出したボールの先を見ようと扉の先に視線を向けた瞬間だった。外の通路でバレーボールを持ったまま佇む、なんだかみたことのある金髪頭。はて。何故こいつがこんなところに。そうして気付いた。そういえばこいつ、海常高校のバスケ部だって言ってた‥‥か‥?

「あっぶな‥‥って!虎侑サンじゃないっスか!?何やってんスかここ誠凛じゃないのに!!」
「黄瀬煩えよ!!」

私の顔を見るなり声を荒げて叫んだ黄瀬涼太は、人を指差して驚いている。そんな黄瀬涼太にいる隣の人も、煩い大声に怒りを露わにしながら私を見て目を見開いた。いや、絶対私知らない人だ。会った記憶がない。

「笠松先輩殴らないでッ!痛いッス!」
「‥つか、なんでこんな所に‥」
「えっと‥?」
「あ、いや、ワリ、なんでも、すまん」
「??」

突然フリーズしそうになっている謎の黒髪の男子生徒に困惑していると、黄瀬涼太からぽんっと投げられたボール。そうしてぺこりと小さく頭を下げる動作をした後、面倒事にならないよう無言で何事もなかったかのように2人をスルーしようとした。‥けど、くるりと後ろを向いた瞬間ぽふんと柔らかい何かにぶつかった。‥何か?割合しておきたい。

「涼太と幸男じゃん!何やってんの?今日部活後半でしょ?」
「乃恵。今日練習試合なのか」
「そ!しかもね、まさかの後輩が相手なんだよ。どれだけ強くなってるか楽しみでさあー!」
「後輩?‥乃恵お前帝光だったっけか?」
「え?なんで幸男トラのこと知ってるの?」
「トラ?」
「?」
「「???」」
「もしかして虎侑サン、」

なんだこれカオスか。内容があんまり分かってない会話をするな。なんとなくこの場にいたらいけない気がしたが、そそくさと去ろうとした足は黄瀬涼太の声によってまた阻まれた。‥なんだか周りの視線が刺さりまくっているのは気のせいだろうか。一応モデルの黄瀬涼太と、高身長美女の如月先輩。そんな目立つ人の中にいれば嫌でも目立つという物だ。‥いやとりあえず。

「な、‥なに、忙しいんだけど」
「練習試合出るんスか?」
「まあ‥出るけど‥?」
「へえー‥」

凄く興味津々に尻尾をブンブン振っているのが見える。‥ような。そうしてそそくさとその場を立ち去ったが、どうやら立ち去る気がないらしい男2人組は2回席へ繋がっているであろう階段を上っていた。‥やることないのか、海常バスケ部は。

2017.06.16

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