ウサギに好きな人がいるのか?という疑問は、彼女に直接聞かないことにした。何故なら、もし恋をしていたなら、きっと私にいずれは相談してくるだろうと思ったからだ。‥とは言え、私は男の子とお付き合いしたことなどはない。なんのアドバイスもしてあげられない!!‥まあつまりは、それが一番の理由になる。悲しい。

「‥ってかさ、広くない!?」
「海常って運動部に力入れてる高校だし、まあそうなんじゃない?」
「いやそうだけどさ‥なんか、設備もきっちりしてるからビビる‥」

というわけで、ここは海常高校の体育館である。が、ここに来るまでの謎のスポーツジムとか屋内プールとか本当になんなんだここは?と、軽く高校内部なのかと疑うレベルだった。金の使い方が違う。まだ海常高校のバレー部は顔を出していない。丁度ミーティング中らしく、ここまで案内をしてくれた向こうのマネージャーさんが、もうすぐ来ますので、と体育館に通してくれたのだ。普通は挨拶を真っ先にするのが世の常だと思っていたけど、‥舐められているのだろうか???

「虎侑、顔怖い顔」
「だってキャプテン‥普通はまず挨拶をしに来るべきが基本じゃないですか‥」
「まあね。でも昨日も練習試合したらしいんだけど、すっごい調子悪かったみたいで、顧問がめちゃめちゃ怒ってるってさっきマネージャーさんが言ってた。だから許してあげて」
「お、おお‥そうなのですか‥」

確かに、海常高校の女子バレーの顧問は顔が怖かった思い出がある。スカウトされた時に話を聞きに行ったことがあるが、むしろそれしか思い出がないくらいだ。

「‥っていうか、ギャラ、ギャラリー多いね‥?」
「いやだから稲田ちゃんどもりすごいよ」
「海常のエースの人、す〜っごい綺麗な人だから男子も女子もファンが多いんだと思うよ」
「弓、よく知ってんね」
「高校1年の時から結構噂されてたし、雑誌にもなんか載ってた。しかもポジションがエーススパイカーだよ?超かっこいいじゃん。ファンもつくよね〜」
「‥ねえトラ、それってさあ‥」
「いやあ‥ちょっと嫌な予感する‥」

ウサギと顔を見合わせてコソコソ話していると、ガヤガヤとした声が体育館に向かってくる音がした。くるりと扉へ視線を向ければ、その先頭を歩く高身長の美女。‥‥ヤバイやっぱそうだ。ウサギの引き気味の声が聞こえるのと同時に首を元の位置に戻してみる。

「‥あれ‥ウサギ‥?トラ?!やだ!!こんなとこで何やってんの!?」
「うっわ‥噂に違わぬ‥‥って、2人共知り合い?」
「「如月先輩‥」」
「「「先輩!!?!!?」」」

富美を筆頭に物凄い声が出たな。‥と、ぼんやりする暇もなく近付いてくる足音は確実に私の方向だ。如月( きさらぎ )乃恵、‥先輩。私達が中学1年の時の3年生。そして、当時の帝光中学女子バレー部のエーススパイカーだった人。1年と3年だし、そこまで関わりはない‥はずだが、残念ながら私もウサギもスタメンだったので、如月先輩とはずっと試合に出ていたせいか、仲良くはしてもらっていた。でも、まさか海常高校だとは知らなかったのだ。

「ぐぎゃっ!!!!」

そして、この人のフレンドリーすぎる性格がたまに‥というよりは、結構苦手だったりする(ウサギも然り)。

「すっごい久しぶりだねーっ!!ていうか、2人共海常来るものだとばっかり思ってたのにいないと思ったら誠凛だったの?!ショックー!!!」
「い"、ったい!!!先輩、いたい!!」
「お、お久しぶりです如月先輩‥元気そうでなにより‥」
「ウサギもおいで!!抱きつかせて!!」
「遠慮しておきます‥」

ちょっと背骨折れるし豊満なお胸のせいで息が出来ない!!ウサギに助けを求めてみるが、近付きたくないらしく距離を取っている。ギャラリーからどエライ悲鳴が聞こえてくるんだが、私は今日死ぬかもしれない。

2017.05.03

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