「明日は9時に学校集合。遅刻した人は走ってきてもらうからね」

それじゃあ解散。

キャプテンのその言葉でつい欠伸が出てしまったが、誰にも見られてはいない。よかった。明日は海常高校で練習試合だ。そのせいで朝は運動場、夕方から体育館で練習、つまり1日中練習していた。お腹が空いて倒れそう。いや、お腹が空いて倒れたことは一度もないけど。

「トラー帰ろー」
「うん」

ウサギは体力がある方だから、あんまり疲れた感じには見えないのがなんだか羨ましい。その体力が尽きない感じはなんなの?コート内で人より数倍走り回ってるくせに信じられない子だ。‥いや、だからかな。とはいえ私も走り回ってるつもりなのに。

「明日の試合スタメンだね」
「無事にね。まあウサギならやれるって思ってたよ」
「それトラに言いたい私の台詞。明日の試合によって今後のメンツ決まってくるんだろうな〜。頑張ろっと」
「折角スタメンになれたのにまた降格とかいやだだな」
「絶対嫌」

数時間前、明日の練習試合に出るメンバーを読み上げられた時に、顧問の口から私とウサギの名前が出た。凄く嬉しかったけど、呼ばれなかった先輩が悔しそうな顔をしていたので喜びを露わにすることはできなかった。‥が、嬉しいものは嬉しい。だからか、今日は妙に力んでいた気がする。私達もだけど、もちろん先輩達も。

「でもさー、うちらがやってたコンビネーションは流石にまだできないよね」
「あれは出来る人にしか出来ないよ。‥それに、スパイカーが"トリ"だからやれたのかもだし」
「まあ‥‥そだね」

そのまま黙り込んで、帰り道を歩く。ウサギの口からトリの名前を聞くとは珍しいなと少しだけ目を丸くした。多分、私よりもウサギの方が乗り越えられない壁かもしれない。私含め3人で仲はよかったけど、そもそもトリとウサギは幼馴染なのだ。

トリ -- 鴻 渚(おおとり なぎさ)は、私達と同じく帝光中学のバレー部員で、エーススパイカーだった。‥けど、今もまだ病院で治療を受けている。彼女はもうバレーが出来ない体で、もう一緒にボールを繋ぎあうことはない。無理な足への負荷、そして救急車で運ばれている最中に起きた衝突事故。

‥負い目は、ある。

「ウサギ、今帰りですか?」
「!?」
「くっ‥黒子君!と、火神君!」
「おーす」
「虎侑さんもいるということは、部活終わりですね。お疲れ様です」
「や、そちらこそです‥」

突然聞こえた声に驚いて振り向くと、例の黒子君がいて驚いた。‥彼に気配はないのだろうか。そういえばなんか初対面な気しかしないんだけどこの人本当に中学で同じクラスだっけな‥?でも忘れてましたなんて言ったら凹まれそうな気がするから言わないけども。隣で佇む男子生徒との体格の差。バスケ部とか、黒子君はぶつかったらコンマ数秒で倒れそうだな。大丈夫か少年。

「誰だ?」
「虎侑陽菜子。ウサギと同中でバレー部です。よろしくね、えーと‥」
「火神大我。よろしく」
「‥ていうか、黒子君と火神君って仲良いよね。なんかいつも一緒にいるような気がする」
「キモいこと言うな!いつの間にか勝手にいるんだよコイツが!」
「失礼ですね。先にいるのはいつも僕ですよ」
「くふふっ‥やっぱ仲良いと思うよ。だってこの間も黒子君‥」
「‥?」

ぼんやりしていると、段々弾み出す会話。なんか私取り残されてる感じあるんだけど、何故。3人同じクラスだからだろうか。楽しそうに喋るなあ‥会話の内容が全然分からないけど、ウサギがなんだかいつもより3割増しほど可愛く見えるのはなんでだろう。‥ん?なんでだ?

「‥‥」

まさかと思うけど、もしかしてウサギ恋でもしてるんだろうか。そんなの私聞いてないぞ。

2017.04.20

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