世の中には良い人もいるもんなんだな。‥なんて思いながら、待ち合わせた場所へと走った数時間前。

「‥おい、怜奈？聞いてんの？」
「あ‥iPhoneバスに置いてきた‥！！！！」
「は！！！？」

さすが自分、最悪なミスをありがとうとばかりに自分で自分を殴ったのはつい先程の話。尊敬しているバンドのアカネさんという人物から携帯を借りて電話をかけてみたら、運良くファンでもなんでもない、何も知らなさそうな男の子に繋がったのだ。助かった。そうして慌てて自分の口から出た言葉にまた殴りたくなったのも事実。いやしかし、もしなんの問題もない人間だったら実現しても構わないか。好きな物ちょっと奢るくらいだったら。と、思い直したのも事実。

「‥‥美味しいです」
「でっしょ！！このくどくない生クリームとふわふわのスポンジが特に！！いや〜分かってるなあ月島君は〜！」
「いや特になにも言ってないんですケド‥」

そんな私を待っていたのは、制服を着た背の高い男子高校生だった。白いヘッドホンと眼鏡が印象的で、大人っぽい顔と目つきをしている。‥正直な話し、身長も凄く高いしどっかの雑誌の現役モデルかと思った。それくらいの破壊力があった最初の出会い。名前は月島蛍君というらしく、烏野高校という学校の生徒さんだそうだ。最近の男子高校生は洗練されすぎていないだろうか。お姉さんドキドキする。

「‥ていうか、大丈夫なんですか。僕貴方のファンに刺されるのだけはちょっと」
「いやそんな過激派いないってば！！ほら私バンドの中でも一応目立たない位置だし影的な存在だからさ〜、私のこと知って寄ってくる人って結構ドラムマニアみたいなオタクばっかなんだよねえ、だからそういうのは、」
「ないでしょうね」
「はい最後まで言わせて！！」

失礼だと思いながらも指を差してやった。‥まあそんで、喋ってたら結構この子辛辣だということが判明したわけだけど、自己紹介はしたから私が歳上だってこと分かってるよね！？いやいいよ、どうせ歳下のやつらは皆私に割と舐め腐った態度をするから慣れてるし。いいよ。いいもん。その代わりライブとかになったら突然尊敬されるから本当にその猫みたいな変わり身の速さどうにかしてほしいわ。‥ん？それはドラムこそ尊敬しているが内面はバカだということか？それはそれで許せん。

「にしても身長たっかいなー月島君。１８０くらい？以上ある？」
「いや、まあ‥１９０、」
「えっ‥そんな高いの！？へえーすんごいね！そんな巨人見るの人生初かも知れないなあー。でもその割には細いよねー。アスリート系ではなさそうな感じ」
「‥‥一応バレーボールしてます」
「ええっ！？意外！！ボール当たったら"痛いんだけど"とか言ってキレてそうなのに‥やっぱ人って見た目じゃわかんないもんだね！」
「‥」

あれ、この子一瞬止まったと思ったら無言でショートケーキ食べ始めた。なんだよー面白くないなあ。反応ないと困るじゃん！会話がなくなっちゃうじゃん！そう考えながら私も月島君と一緒に頼んだショートケーキを口に運ぶ。一言断っておくが、ここは一応個室のあるケーキ屋さんである。よって誰もここに私が男子高校生と一緒にいるなんてことは知るはずもないし見えるはずもない。

「兒嶋さん、」
「ああーちょっとそれ！呼び慣れない！怜奈でいいよ！」
「‥‥‥怜奈さんも全然ドラム叩いてるなんて風には見えないですけどね」
「うーーん、それよく言われるんだよね！フルートとか吹いてそうなのに〜とか思った？それもよく言われる！」
「大太鼓とか叩いて思いっきり風穴開けてそうですよネ」
「月島君それどういう意味かを説明してもらっていいかな」

すごくいい笑顔でそんなことを言われたものだから、私も笑顔で催促してみた。自分の額に青筋が立っていた気がしたけど、私は大人だから我慢、大丈夫我慢。高校生って生意気だなあ‥私も生意気だったのかもしれないと心の中で考えつつ、全力で反省した。

2017.04.18