春と言えば出会いの季節である。出会い=恋。そんな方程式までしっかり根付いているこのご時世、ドラマに漫画にとネタを広げている。まあ尽きつつもありそうだけども。てか5日後には5月だし、春も半ば‥?

恋はまだしたことがない。言わずもがな、初恋もだ。いつか私もするのかなあ。少し大人びた風貌の男の人が壁ドンして、現実離れした目の大きさの女の子が顔を真っ赤にしている某有名シーンを見ながら私は口を尖らせた。背景のキラキラトーンが凄い。凄く、眩しい‥。

「知里ー、なーに見てんのー?」
「え、わっ!菅原君は見ちゃダメ!」
「そんな堂々と読んでてそれはねえべ」

にこーって笑った菅原君は、おはよーなんて間延びした声を出しながら、座っている私の後ろから全体重を乗せてきた。重い重い。高校生男児の体重を舐めてちゃいけない。言い過ぎだとしても私より重い。‥筈だ。菅原君女の子みたいだけど。

「‥知里ってこういう人が好きなのか?意外」
「違くて!さっき友達が貸してくれたの、高校3年にして未だ初恋がまだな私を案じて!」
「知里そういうの鈍いもんな」
「疎いんです!」
「意味合い同じだべ」
「スガ、おは‥って、相変わらず違和感のない構図だなお前ら‥」
「澤村君呆れてないで助けて‥」
「はは、いつものことだろ」

澤村君と菅原君は男子バレー部の主将と副主将で、私含め3人まるごと高校生活を共に過ごしている。つまり3年間同じクラスだ。だからこそ遠慮がないというか、なんというか。いやだとしても、ぎゅうぎゅうと私が机に押し潰されている姿を見ながらスルーするとは、男がすたっているぞ澤村君。確かにいつものことなのはそうなんだけども。

「にしても、知里もこういうの読むんだな」
「澤村君までそういうこと言う!だから、!」
「知里が無知だからってやつな」
「菅原君鉛筆刺すよ!」
「それは痛いからやめてくれよー」

和気藹々(?)と騒ぐこの光景を、周りももう見慣れているのかやめさせようとすることすらしない。それどころか微笑ましく見ているような気さえする。今しがた教室に現れた、親友の琴ちゃんでさえもにこやかに笑ってスルーしてくれた。

「‥ってか、これ誰かに似てるな」
「漫画に出てくるようなキャラに似てる奴なんて早々いねえべ」

人の漫画に食らいついて、男子高校生2人が何やってんだか。似てるとは言いながら誰に似てるかは分からないらしい澤村君は、顎に手を当てたまま黙りこんでしまった。そんなに思い詰めるほど考えなくていいのではないか。というか菅原君どいてくれないかな。あ、芹原さとみがCMでやってるフレグランスの洗剤の匂いがする。

「大地、今度の合宿の‥」

すんすんと菅原君の匂いを堪能していると(決して変態ではない)、教室のドアから澤村君を呼ぶ声がした。澤村君の客人が来ているぞ。菅原君、少し恥ずかしいから私の上からどいてくれ。そう思いながら取り返した漫画のページをこっそり捲る。壁ドンからの「好きだって、言ってるんだ‥!!」が1ページ分、必死な男性の顔が1ページ分だった。紙の使い方勿体無いなあ。

「「‥‥旭だ‥‥」」

そんな2人の声に、私もなんのことだろうかと漫画から目線を外す。

「‥ヒエッ」

あっ、声が出ちゃった。顔は知ってる。有名だし、何より2人のチームメイトらしいし、たまに話も聞いている。少しだけ話したこともある(菅原君の居場所を聞かれただけ)。でも怖い。東峰旭君は、少女漫画にはまず大凡出てはこないだろう、髭が生えた高校生だ。

2016.10.12

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