高校3年間の青春は、所属していたバレーボールに全てを持っていかれた。でもそれは、意図してやっていたことで、そこになんら後悔など存在はしない。入部した頃は「落ちた強豪・飛べない烏」だって呼ばれていたことも、今となっては過去の話。

だけどその場所にずっと自分の足で立っていたのかと問われれば、そこは首を傾げてしまう所がある。当時の天才1年、全国のユース選抜にも選ばれた影山飛雄に俺が敵うはずもなく。そしてそれを少しでも恨めしく思う自分がいない訳でもなく。結局俺の青春は、全盛期、で終われた訳ではなかった。

それでも後悔なんて微塵もしていない。

少しの間でも、影山の代わりだろうとなんだろうと、震える足でそこに居た事実は確かにある。信頼を寄せられていたセッターであったということは、今だからこそ自負できる。才能だけが全てではないことをそこで知った。

そうして青春と言えば、恋の話もあったりする。

高校時代に好きになった1人の女の子は、控え目で大人しい、でも言いたいことはちゃんとはっきり言えるところもある、可愛くて小さくて、小動物みたいな子。入学式、初めての試験、夏休み、体育祭、文化祭、冬休み。月日が経つにつれていつの間にか目で追いかけて、心臓が日に日に反応するようになった。

だがここでも俺は、上手くいかなかった。俺の好きなその女の子は、烏野男子排球部のへなちょこエースといつの間にか顔見知りになって、仲良くなって、紆余屈折はあったが、とうとう付き合うまでに至ったのだ。悔しい、どうして、なんで。そんな思いはあれど、旭も彼女も俺にとってはとても大切で、簡単に横入りなど出来なかったのは言うまでもなく。少しだけ意地悪して、好き≠ニいう想いを間接的に伝えたまま(伝わっていたのかは定かではないが)、旭と彼女の背中を押した。

そうしてある時、2人の抱擁シーンに遭遇してしまって、安堵と落胆が交互に鬩ぎ合って、でもやっぱり悔しくて悲しくて涙が出た。それは、旭も彼女も知らないこと。

知っていたのは、そんな彼女の親友である日島琴という女の子だけ。格好が悪いことに、日島だけが俺の涙も涙の理由も知ってしまったのだ。













「スガ、クラスの同窓会どうする?」
「ナニソレ?」

カリカリとノートの上を滑っていたペン先がふと止まった。さっきまで大学の課題をやらねばと言っていた大地が、ぴこんと光ったスマホの画面に目を向けて、それごと俺に見せつけてくる。ちょっと待て、一体なんのことだ。俺はそんなの来てないけど、‥と言いかけた所でタイミングよくラインの着信音が鳴った。まるで図ったみたいだな、と考えて画面をスライドさせたその先には、大地と同じ内容のメールが映し出されている。再来月の、頭。バイトあったっけな‥?

別の大学に進学した大地とは、勉強がてらと会う頻度が中々多い。旭は就職組だったからそうはいかないけど、1ヶ月に1、2回は3人で集まってご飯を食べる、そういう習慣がついていた。大学は結構楽しい。今までと違う、大人に少しだけ近付いた、大人になりかけの新しい人達と出会えることができる。当たり前だとは思うけど、高校の頃と何もかもが全然違っていた。

「久しぶりに皆に会いたいよな」
「まあそうだな〜、卒業して会ってない奴とかいるし」
「行くならスガもって直接メールしとくけど」
「待った、シフト確認する」

スマホのスケジュールのアイコンをタップして、何もないことになんとなくほっとした。‥ってことはやっぱ俺行きたいんだろうなって納得。大地に送っといてと一言だけ伝えると、そのまま机の上に置いて自分の課題を手に取った。

「先生とか来たりすんのかな」
「さあ‥忙しいんじゃないか?」
「まあそりゃそうだべな〜。皆垢抜けてんのかな〜、俺大丈夫かな〜」
「スガは変わってないから心配するな」
「ひっでー‥少しは大人の男になっただろ」
「ハハ」
「棒か」

作り笑いにも程があるが、バカにしているわけではなくてスルーしようとしているだけだろう。

大地は高校を卒業してから、少し大人びた感じがする。なんでそう思うかは分からないけど、雰囲気が前より柔らかくなった。‥気がするから。周りに世話の焼ける後輩がいなくなったからかもしれない。まあ怒るようなこともなくなったもんな。個人的には、それはそれで寂しいけど。

大地が変わったんなら、俺も変わった。‥と、思いたい。でも多分変わってない。なんでそう言い切れるのかっていうのは割合したい所である。

結局高校時代の格好悪い思い出を、俺は懐かしい思い出≠ノなんかできていなかったのだ。

2018.11.19

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