「琴、クラス会やるって聞いたー?」
「グループラインで見た。何、行くの?」
「行くよ。めっちゃ久しぶりじゃん、皆に会いたいし」

中学から頑張り始めた頭の勉強の甲斐もあって、某有名大学に進学することができた春。そうして、1人暮しにも慣れて、新しい友人も増えて、高校の時より身だしなみにも化粧にも気を使うようになった頃。同じ高校から同じ大学に進学した唯一の同級生が、新色のグロスを唇に塗り直ししながら嬉しそうに笑った。

「行かないの?」
「んー‥ちょっとまだ悩んでる」
「意外ー。行くかと思ってたのに。なんで?」
「気分的な問題」
「ふーん?」

あんた仲良い子いっぱいいたし行くかと思ってたのに。グロスを塗り終えた友人は、悩んでるなら私と一緒に行こうよって私の腕を揺すっている。あーもう。やめてよ。行きたい理由がないわけじゃない、だけど行きたくない理由がちょっとあるんだってば。とはいえそんなことが言えるわけない。

「バイトかなんかあるの?」
「いや‥‥ないけど‥」
「じゃあ行けるじゃん。確か13時からだよね?大学で待ち合わせして一緒に行こうよ」
「ええ‥」
「1人で行くの嫌だもん!ちょっと遠いし。ね?ね??」

こんなに押されて嫌だ、とは言えない。そもそも行けない理由がないからというのもあるけど。‥実際はそんなに行きたくないわけじゃないから。そりゃ行きたいし、会いたいよ皆には。だけどなあ‥。考え込んでいると、その姿をオッケーだと思ったらしい友人は、じゃあ決まりね!今更キャンセルとか許さないから!と背中をバシンと叩いてカッコイイ先輩がいるというサークルの為にさっさと消えていってしまった。

ええ‥やっぱりいやだなあ‥。

サークルのカッコイイ先輩、とか。当たり障りなく恋への一歩を踏み出して楽しそうだ。私なんか当分の間は無理だと思う。ずっと、ずーっと1人しか見えてなかったんだもん。そんなことすら奴は気付いてないんだろうなあ。‥急に気が重い。明日からインフルエンザにかかんないかな。













私の初恋は、高校1年の夏。入学式の時に仲良くなった、女の子みたいに可愛い、菅原孝支という、スガ君って呼んでたバレー部の男の子。彼と一緒にいるととても心地良くて、楽しくて、胸がどきどきした。そこそこ頭も良く周りの信頼もあってか、1年の時から生徒会に所属していた私の真っ黒な愚痴を嫌な顔せずに聞いてくれたり、気分転換にと面白いことを言ったり面白い画像を見せてくれたり。まあ、面白いことが寒いギャグなので実際面白いことはなかったんだけど。

そうしてきっと私達は良い感じなんじゃないかとふと思っていた時、同時に気付いてしまったのはスガ君の熱い視線。私‥ではなくて、私の親友に向けてのもの。あれ?あれれ?ズガーンッて撃ち込まれた弾丸に痛いって思う暇もなかった。だけど、私の親友は親友で別に好きな人がいた。よかった、なんて思う自分がいるのは当たり前のことで、スガ君の恋を応援してあげたいけど応援なんかできっこない、だけど口では応援してるようなフリをして、親友の恋を本気で応援する。最低だと思ったけど、そんなことしかできなかった。そんな風だったから、卒業するまで告白なんて出来っこなくて、ずるずると引っ張ってしまった恋。

何度か連絡はきたけど、忘れたくてどうしようもなくて、結局一度も返信は返さなかった。












「あー!2人ともやっと来た!来ないかと思ったよー!」

既に和気藹々と始まっていたクラス会は、垢抜けたような、外見を気にし始めたクラスメイトが集まっていた。あ、‥やつ、いない。よかった、とほっとしたような。殆どが集まっていたから、やっぱり私のクラスは仲が良いんだなあと再認識して、ごめんごめんと両手を合わせて謝っていると、つい最近までは連絡もご無沙汰だった親友が奥で手を振っているのが見えた。どきん。‥これは、断じて恋の音ではなくて、驚きとか焦りとか、多分そんな感じ。高校3年の途中から他のクラスの東峰君と付き合い始めた親友の来海は、誰からみても素敵な女性へと変貌していて、それが逆に羨ましくて、ちょっぴり寂しくて、‥ほんの少しだけ悔しかった。

「来海‥なんか見ないうちに大人っぽくなったね」
「え‥そ、そうかな‥?」
「東峰君とは仲良くよろしくやってるということか〜。良いこと良いこと」
「え‥えへへ‥」

隠し下手か。ちょっとむかついて、照れたように笑った来海の頭をぽこんと殴ってやると、いた!と声を上げた。まあ、幸せそうでなによりである。なんなら分けてほしいくらい。恋をした女の子のオーラで、なんにもない私は当たり前のように霞む。高校の時に勤めていた生徒会副会長なんて肩書き、今となってはチンケな思い出だ。

「もう参加者全員きたー?」
「春高バレー組がまだ来てねーよー」
「はー?あの2人誰よりも早く返信きたんだけど」

どき。計画をした2、3人が名簿を見ながら呆れたように笑っているのが聞こえて、ついでにここに来てから見ていない顔の名前も聞こえて心臓がひゅうと縮まった。ちょっと待って、春高バレー組って大地君とスガ君のことじゃん‥。

「わ‥私もうちょっとしたら帰ろうかな‥」
「えっ?琴ちゃん今来たばっかりじゃん‥!」

だって、やっぱり会うの無理なんだよ!会ったら絶対ぶり返すもん、好きだったのぶり返す!!そんなの困るし、今更昔の思い出とか蒸し返すの無理だし!来海や友達には連絡取ればきっといずれ会えるから、やっぱり今日のところは帰ろう、ジュースを一杯もらって、用事があるから、課題がてんこ盛りなんだって適当な理由つけて帰ろう。

「おっせー、お前ら何やってたんだよ!」
「わりーわりー、課題出してなくてさ〜」

そうして握られた腕をそっと解こうとした時に後ろから聞こえた声は、ずっと好きだった声で、出来れば聞きたくなかったものだ。このままダッシュで逃げ出せればよかったのに、そうできなかったのは、‥もうすでにぶり返していたから。もしくは、まだスガ君のことを忘れられていないからだ。

2019.02.05

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