初めてのえっちは、思っていたよりずっと痛くてずきずきした。その後に京治君にもう1回ってせがまれて、結局3回。‥初めてで3回ってどうなの。‥分かんないけど、地味に腰が痛い。体育会系男子って怖いなあ。京治君はあんまりそういう風に見えないけど、やっぱり体力がある。鍛えられた腕とか腹筋とかそういうのを見ちゃったら、‥やだ、もう思い出すのやめよ。

「那津、大丈夫?」
「‥じゃないもん‥」

股の辺りが少しひりひりして歩きにくいなあって思っていたら、ホテルから出てすぐに京治君が屈んでおんぶしてくれた。私の様子がおかしいことにすぐ気付いてくれたことはとても嬉しいけど、それは京治君のせい、‥おかげ。いやなんて言うべきか正直分からないところはあるけれど、とにかく彼が原因。くすくすと笑いながら支える手はまだ熱い。私が熱いだけかもしれないけど。

「ねえ京治君」
「ん?」
「‥井芹先輩に告白されたこと、なんで言ってくれなかったの?」
「言った方がよかった?」
「わ、分かんないけど‥‥‥でも、京治君のこと知らないの、ちょっと寂しかったから‥」
「そっか」

これは正直な私の気持ちだった。だって、他の人が知ってて私が知らない京治君がいるのはちょっとだけ悔しいから。えっちをしてから少しだけ私の中の気持ちが少し大きくなって改善されたから、そんなことを言えるようになったのかもしれない。首の辺りに巻き付けた腕に力を込めると、「那津、俺はいいけどおっぱい当たってる」ってからかわれて手を離しかけた。

「ごめん。言う必要ないかと思って」
「うん」
「これからはそういうのちゃんと言うよ。不安にさせたみたいだし、‥それより」
「ん?」
「那津こそ井芹さんと知り合いだったの、なんで?」

そうだ、そういえば京治君にはそのこと言ってなかったっけ。そう思って、あの日井芹先輩に会ったことを少しずつ吐き出した。京治君と釣り合いたくて可愛くなりたかったこと、お手洗いで偶々先輩に会ったこと、オシャレなリップを貰ったこと、連絡を取るようになったこと、大学で一緒にご飯を食べたこと。‥って、私もあんまり京治君にそういうことを話したことなかったな。そう思ったらなんとなくどっちもどっちかって考えて、ふふふって笑けてしまう。‥なんだ、お互いちゃんと歩み寄ってなかっただけなのかもしれないなあ。

「井芹先輩は、あの、‥すごく京治君のこと好きだって言ってた」
「は?あの人が?」
「へ?」

驚いたような声に、私は大きく首を傾げた。え?だって、バレーボールやってて、セッターっていうポジションで、自分の意思を持ってる強い人だってそう言ってたよ。自分で言っててもやっとして口が尖ってしまうのは許してほしい。けどそれを聞いた京治君は「ああ、そういうこと」って可笑しそうに笑ってちらっとこちらを見た。‥私なんか間違ってた?

「言ってることは合ってるけどそれ俺じゃないよ」
「え?で、でも、告白されたんだよね?」
「そうなんだけどね、あの人の本命は実際には別。俺はその型に上手くはまってたってだけ。‥いやさ、俺実はその後井芹さんと偶々話す機会があったんだけど」
「話す機会?」
「あの人も色々あったみたいでさ」

井芹先輩にはずっと好きな人がいる、らしい。京治君に近付いた理由も、全部彼が話してくれた。ああ成る程なあって、話しを聞いているとそのうちなんとなく心の中の荒れが緩くなって無くなった。最後の最後に俺は井芹さんに靡いた覚えなんてないから安心していいよって笑う姿が、とても可愛くて仕方がない。1人で空回りしてごめんなさいと一言告げて彼の肩に顔を埋めた。体を重ねてちゃんと言葉を交わし合ったことで、ぐしゃぐしゃになっていた糸が真っ直ぐぴんと張った後、しっかり赤く色付いていくような、‥そんな風に感じた。

「これからはちゃんと話そう、色々」
「‥頑張る」
「それか、毎日えっちしたら素直になるかな」
「まっ毎日とか無理だよ‥!!」
「嫌じゃなくて無理なら頑張れそうだね」

にやにやとした厭らしい声がした。ぞくって背中が震えて、口からほんのり熱い息が出る。そろりそろりと伸ばされた指が太腿の内側を張った瞬間に、思わずぐにっと京治君の右の頬っぺたを抓った。‥ここ外なんだからやめてよ、そういうことするの。

2018.07.18

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