「んん〜〜‥‥ぐふ、」

顔に直接当たる光が眩しい。思わず顰めて体を動かそうとしてみたが、思うように動いてくれなかった。なんだかとてもぬくいなあ、自分じゃないような匂いもする。そんなことに違和感を感じて、未だ重い瞼をそっと押し上げてみると、光と一緒に肌色の何かが見えた。おや、なんだこれは、とぺたりとそれに触れた瞬間である。掠れた声と息遣いのようなものが、自分の耳に鮮明に入ってきた。

「‥」

重たかった瞼が、急激に軽くなった。そうだ昨日、なんて思い出して、体が一気に覚醒する。隣にいるのは裸の繋心さんだ。‥そして自分も素っ裸だ。

ぐっと掛け布団を握りしめて昨日のあれやこれを思い出すと、ぼふんと頭から湯気が出そうだった。‥全部覚えてる。酒に酔った訳とかじゃなくて、彼がちゃんと私を欲しがって結ばれた夜。ぱたたと落ちてきた汗の感触だって、熱い唇だって力強くて優しい手つきだって、全部全部覚えてる。すっごい、気持ちよかったなあ‥。痛いとかなんてものよりもずっと、ずっとずっと幸福な感覚だ。

「‥なんだよ」
「えっ起きてた、」
「ぺたぺた触るから目ェ覚めた」
「あ、ごっごめんなさい‥」
「別に好きに触ってくれていいけど‥‥ねむ‥」
「むわ、」

ちらり。こちらに目配せをした後に、大きな両腕が腰に巻きついた。そのままぎゅうぎゅうと彼の胸板の真ん中に押し込められて、ちょっぴり苦しい。‥そして愛おしい。今日って何日だっけ、何曜日だっけ。締切近い仕事あったっけ。なんかやることあったっけ。繋心さんはなんにもやることないのかな。

「‥今日は早朝収穫休み。夕方から烏野」
「よく考えてること分かりましたね」
「まあな」
「まだ起きません?」
「‥もうちょいこのままがいい」

うぐ、擽ったい。肩の辺りに彼の髪の毛がぐしゃぐしゃと触れてくる。もうちょいこのまま、‥ですと?そりゃ素っ裸なので何か当たっているような当たってないような。それが別段気まずいとかじゃないんだけど、‥まあ気まずいようなものが太ももあたりに当たっている気がする。じいと半分寝かけている彼の目を見つめていると、気まずそうに逸らされた。

「朝はしゃーねえだろ‥」
「そ、そうですよね」
「‥」
「よからぬことを考えているお顔‥」
「よからぬって失礼だな。まあしたいとは思ってっけど」
「こんな!眩しい光の中で!?」
「ぶふっ」

けらけらと笑う繋心さんの頬っぺたをぐにっと抓る。なんだ、ただからかわれただけか。いやそうじゃないと困る。明るいところで私を見せるとか、無理無理、全力でそこは頭を横に振らせてもらう。はー朝から笑った、覚醒しちまった。そんな彼の言葉の次に聞こえた彼のお腹の音で、今度は私が笑ってしまう。人間の三大欲求が全部凝縮して大変だなあと思いながら、繋心さんの胸板をゆっくりと押した。

「とりあえず朝ご飯ですね」
「だな」
「おばさんもう食べちゃったかな」
「偶には近くの喫茶店でのんびり食べようぜ」
「モーニング!あるんですか!」
「いや、この辺でモーニングってのは見たことねえなー」
「残念‥」
「タマゴサンド美味しいとこはあるぞ」
「ほんとですか!じゃあ早く着替えて行きましょ、」

布団の周りに散らばった自分の下着や服を見つけて手を伸ばすと、それを遮るように繋心さんの掌がくっついた。ごつごつとした指の感覚、昨日と同じだ。また思い出して、かあと頬が熱くなる。ぐいと体を引っ張られて、上から上唇を柔らかく食まれながらそのまま深く口付けられると、どうにも抵抗できなかった。掛け布団の中で、もう1つの掌がお腹の辺りをゆっくりとするするなぞっている。あ、やばい。‥これ流されるかも。

「‥、あ、あれ、」
「なんだよ、早く着替えるんだろ?」
「え」
「ん?」

一頻り唇を堪能したかと思ったら、そのまま唇が離れて、弄っていた掌もすっと引いていった。それこそ、何事もなかったかのように、だ。‥ちょっとまって。絶対、そういう流れだったじゃん。舌入れてきた、じゃん‥すごい触ってたじゃん!だけどそんなことを、ニヤニヤしながら私を見ている繋心さんには言えなかった。その気にさせて、期待させておいて。

「ゆかり、顔真っ赤」
「‥だって、するかと思ったんですもん‥」
「眩しい光の中は嫌なんじゃねーの?」
「嫌ですよ、でも繋心さんが悪いんじゃないですか、あんなのその気になっちゃいます‥」

‥なによ、もう超恥ずかしい。超恥ずかしいからなんか言ってよ、と思って顔を上げてみたら、腕で同じように真っ赤な顔を隠す繋心さんがいた。自分で仕掛けておいて、なんでそんな顔するかなあ。‥ああもう、めちゃくちゃ好きでしょうがない。

2018.04.14

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