『事も収まったみたいでなによりなにより』
「色々ありがとね。怜奈のおかげで助かった」
『いーってことよ!友達なんだし、助けるのは当たり前!だけどなあ‥まさかほんとにアカネさんがなあ‥ねえ、今度コーチの顔見せてよ。アカネさんよりかっこいいってどんなん?』
「‥あんたほんと急に空気読めなくなるから怖い」

今隣に繋心さんいるんだからね。ダダ漏れであろう怜奈の声が聞こえていないわけはない‥と、ちらりと様子を伺った瞬間である。頗る機嫌の悪そうな目が私の携帯を睨んでいた。えー‥それはさすがに怖いんですけど‥。ごめん怜奈、また後日電話するからと電源を切って、ぽいと携帯を投げ捨てると、むっすりとする繋心さんがじとりと私を見ながらはあと大きく溜息を吐いた。

「‥怒ってます?」
「怒ってるわけじゃなくて。‥‥お前は俺でほんとによかったのかよ」
「まだ聞きたいんですか‥いい加減恥ずかしいんですけど‥」

繋心さんが帰ってきて、ちゃんと全部断って分かってもらったっていう話しをしたら、安心していたと同時に何故か凹んでいた。どうしたんだろうかと思ったら、どうやらあいつはイケメンだの俺はおっさんだのと、堰を切ったようにぐちゃぐちゃしたものを突然吐き出し始めたのだ。不安にさせちゃってごめんなさい、でも私は繋心さんだけなんですよって散々話をしたけれど、どうにも機嫌がなおらない。でも、そういうちょっとだけ面倒臭いところを鬱陶しいなんて微塵も思わなかった。子供みたいで可愛いなって、もっと彼のことを好きになっちゃったくらいだ。だけど、何度も面と向かって好きだとか繋心さんがいいんだとか言うのはまだ照れちゃうから、そろそろ勘弁してほしいなあ。

「大のオトナがかっこわりーとは思うけどよお‥」
「‥繋心さん大好き、‥ですからほら、もう機嫌なおしてくださいよ」
「‥ん」

ことんと彼の右肩に頭を乗せて見上げると、ちょっとだけ赤くなった耳が見えた。いつもヘアバンドであげている髪の毛も、今はお風呂上がりのせいもあってへにょりと落ちている。いつものヘアスタイルも好きだけど、こういう時しか見せない崩れた髪の毛にもドキドキしてしまう。だって、皆知らないでしょ?こんなに緩い彼の姿。色んな不安から解放された私は、大胆すぎるかなあなんて思いながらも大きな手に自分の手を重ねた。ごつごつして、あったかくて、心がぽかぽかする。暫くそうしていると、指と指の間に割り込んで絡まる彼の指。はた、と気付いた時にはおでこに唇が押し付けられていた。

「おでこ‥」
「こんなんで満足しねえぞ」

もっと触れたい所、いっぱいある。そう言って顎を上に向けられた瞬間、頬っぺたとか目尻とか、色んな所に口付けられた。ああ、なんか前にも似たようなことされたようなと思っていると、ぺたっと唇に何かが這う。ああ、これ気持ちいやつだっていうのを思い出したら、無意識のうちに私の唇も開いていた。

「‥約束、覚えてるよな?」

そりゃあ覚えてますけど。‥いや待って。その前に準備を怠っていないか心配で、慌てて色んなことを思い出す為に頭をフル回転させた。下着とか、色々女の子にだって事情ってものがある。そんなあからさまに下着見てんじゃねえよって手首を掴まれて、がぶりと首に軽く歯を立てられた。痛くない、‥むしろ、背中がぞくぞくした。そのまま生温い感触がして、ひえって喉が震える。色気ねえ声だってわははって笑った繋心さんだって、雰囲気ってものをだいぶぶち壊してるよ。

「全部貰うからな」

あ、限界なんだって思った瞬間、たくさんキスが降ってきて苦しかった。途中で少しだけ離れた唇と唇の間で彼の息遣いが聞こえてくる。‥やばい、心臓が爆発してしまいそうだ。空気を確保するのに精一杯になっていると、服の上から上半身を撫でられて、とてもじゃないけど声を我慢できそうにない。優しい手つきなのに、なんだか少しだけ強引なのがなんとなく繋心さんっぽいというか、

「ん ぁ、」

2つのうちの1つの膨らみの上から、明らかな動きがある。ふに、と何度も掌を押し付けられて、何度も親指で頂きを擦って、身体のラインをなぞるように掌が動いた。下着と服の上からというのが擽ったくてもどかしくて、声が上擦る。なんだか自分じゃないみたいな息が混じったような音に、彼の喉がごくんと鳴った。

「ちょっと聞いときてえんだけど、‥初めて?」
「いや、あの、流石に‥すみませ、っん」
「あー‥まあそうだよな‥」
「残念です‥?」
「そりゃもう残念だけどよ‥」

俺達はこれが初めてだし、それでいい。ばさりとTシャツを脱ぎ捨てながら、獣の目で笑った繋心さんが私の上に覆いかぶさって言った。脱いで。‥脱がせてください。じゃあ遠慮なくって服にかけた手はちょっぴり震えている。緊張してるんですかってなんとなく声をかけたら、好きな女抱くのに緊張しねえやついんのかよって、またぶすくれた。

2018.03.22

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