高く飛んでいくバトンを目で追えるようになった。

キャッチするのが得意になったのは多分1年生の秋頃。それから時は流れ、今年の夏目前、早くも3年生の先輩方が卒業した今、私は梟谷学園のチアリーディング部でキャプテンを務めるまでになった。実力とキャプテンという言葉が結び付いての昇格なのかとか、そういうのはあんまりよく分からないけれど、他の人よりもうんと頑張っていたという自負はある。大好きなものに夢中になるということがとても素晴らしいと知ったのは、1つ上の先輩のおかげ。チアリーディング部ではないし女子でもないけど、梟谷学園男子バレー部で、テンションの上げ下げが激しいことで有名な主将。‥頼り甲斐が有り頼り甲斐が無いと意味不明なことを言う幼馴染の赤葦京治が、よく愚痴を零すあの人だ。

「夜鷹、遅刻するよ」
「あーうん分かってる、今行く」

朝。私の家を通り過ぎるついでに迎えにも上がってくる京治は、そんなあの人と同じ部活で副主将だ。2年生にして副主将を務めるとは中々やる奴だな。‥いやまて、そんな私はキャプテンじゃんか。京治より凄い。ぼんやりそんなことを考えながら靴を履いて玄関へ飛び出した。

「ねえ、今日部活何時から?」
「体育館丸々使えるから授業終わってすぐだけど」
「終わってすぐかあ‥」
「なんかあんの?」
「今度バレー部練習試合あるんでしょ?応援がてら夏のインターハイの下見に行こうと思うんだけど、その日のスケジュール知りたくて」
「下見って‥」
「今年のスタメンとベンチメンバー殆ど分かんないんだもん」

梟谷学園の部活動は基本的に強い所ばっかりだけど、男子バレー部に関しては頭1個抜け出て強い。全国には当たり前のように毎年出ているから、もちろん私の所属するチアリーディング部も毎回応援に駆り出されている。今年だって絶対行くだろうなって思ってるから、それなりの準備は必要なのだ。

「っていうか、俺すぐ分かるけど」
「うん。‥そうだね」
「‥お前回りくどい」
「!」
「木兎さんに会いたいだけだろ」

線みたいになっている呆れ目に私の心臓がぐらついた。‥な、何が悪い会いたくて。それに木兎さんじゃなくて、私は男子バレー部のマネージャーさんに予定を聞きに行きたいんだから。それのついでに会えればいいなってそう思っているだけだ。

「そういうの主将としてどうなわけ」
「すぐそういうこと言うから京治は嫌い」
「へえ。この間クラスの女の子に一ノ倉さんと付き合ってるの?って言われたよ、俺。仲良く見えるからじゃない?」
「そういうのちゃんと否定してるよね?」
「ただの幼馴染だからね」

つんと前を向いた京治は、面倒くさそうにそう言ったあとにふわふわと欠伸を1つ零した。そうだ、赤葦京治とはそういう男なのだ、だから助かる。

木兎先輩は弱点が多い。すぐしょげるし、しょげた姿は半端なくカッコ悪い。‥と言われている。それが私にはカッコ悪く見えないのだから恋とは不思議だなと思う。彼のスパイクを初めて見てからというもの、「カッコ悪い」と思えるようなことは一度もなかった。自分が1番だと信じて疑わない強さみたいな、そういう姿をコートの中で見て「この人はカッコイイ人だ」ということが私の中で定着してしまったのだ。

「‥っていうか今日夕方から雨の予報だけど、傘良かったの?」
「え?嘘、ちょっとそういうの早く言ってよ、もう家遠いじゃん!」
「事前準備ちゃんとしてこないから朝余裕なくなるんだよ‥お天気番組くらい見てきたら」
「‥ほんと嫌味」
「売店のおにぎり1個」
「のった!」

ばちん!挙げられた手を叩いて、交渉成立とばかりに笑った京治。なんだかんだで結局いい奴なのは知っているから、つい甘えてしまうのは幼馴染だからこそ。どうせ普通のビニール傘の他に折りたたみの1個くらい持ってきてるだろうなと思っていたよ。さすが私のことをよく分かっている男である。

「一限やだなあ〜」
「なに、数II?」
「よくお分かりで」
「今日小テストするとか言ってなかったっけ」
「うん。まあ勉強はしてるから大丈夫なんだけどさ」
「主将が赤点とか有り得ないだろ」
「へー、じゃあ木兎先輩も?」
「‥木兎さんは有り得る」

有り得るんだ。京治の引き攣った口元はなんだか予想通りで笑ってしまう。そんなところでさえ木兎先輩できないのか、可愛いなってついそう思ってしまうのだ。まあでも、確かに主将の赤点はまずいよね。私が赤点だったらまず、同級生のチームメイトにギッタギタにされる気がするもん。それを考えると木兎先輩をだいぶ甘やかしているなあと思うよ、京治。

2018.06.26

次へ