疼く刺青

「実は先日、封印の器である人物が何者かに襲われた」
「え」

窓から視線をそらせた綱手様が眉間に皺を寄せて嘆くように告げた。えっと…封印の器ってそんなに何人もいるの?頭に疑問を浮かべながら困ったように私は眉尻を下げた。

「一応無事ではあるが身体に呪印が刻まれている。これは憶測に過ぎないが……もしかするとお前にも被害が及ぶかもしれない」
「封印の器ってたくさんいるんですか?」
「お前を含め5名。皆力のある忍だ」
「どうして…私が狙われる可能性があるんですか?」
「さっきも言っただろう、襲われた奴は封印の器だったと。1個人を狙っただけなのかもしれんがそれは分からん…が、用心にこしたことはないからな」
「気をつけろということですか…」
「ああ。それでだな、お前を呼び出した理由がもう1つある」
「?」

机に両肘をついて手の甲に顎を乗せた綱手様は、私から視線を外して火影室の扉へ向けた。同時に人の気配を感じて振り向くといつもなら会いたくてたまらないが、今日ばかりは会いたくなかった人物が扉を開けて姿を見せている。昨日の様子が鮮明に浮かび上がって、思わず顔を背けてしまった。

「遅くなってすんません」
「いい。すぐ済む」
「…どうして、シカマルが…?」
「お前に護衛をつけることにした。シカマルなら家も近いし適任だろ」
「?!」

ちょっと待ってよ…シカマル…私が封印の器だって知ってたの…?!なんで!?自分自身で知らないことをシカマルが知っていたらしいということに目が丸くなる。それと同時に、どうして今までシカマルが私を心配したり構ってくれていたのかを嫌でも納得してしまった。そっか‥私が特殊な封印の器だったからなんだ…とぼそりと呟くと俯いて両手を握りしめる。さっきヒナタに頑張ってみるって言ったばかりなのに、その決意が早くも揺らいだ。

「コトメ?」
「あ、…っ、なんでもないの、」
「シカマル、頼むぞ」
「了解っス」
「コトメ。これからお前に任せる任務は内勤ばかりになるが…決して実力が伴わないからじゃない。神獣も然り、お前を守る為でもあることを肝に命じておけ。分かったら下がっていい」
「…分かり、ました…」

ちらりとシカマルを盗み見て溜息を吐くと、廊下への扉に手をかける。どうして…シカマル、私が過去を知りたいって思ってたのは知ってた、よね…?シカマルが私を気にしていた理由がはっきりしたことよりも、知ってることを隠されていたことの方がショックが大きかった。廊下へ出ると私の後ろをついてくるように歩くシカマルの足音が聞こえてきて歩みを止めた。

「お前、昨日どうして来なかったんだよ」
「…」
「ロンさんから話し聞いたんだろ」
「…シカマル、知ってたんでしょ?私の過去…だったら私が何か話す必要…ある?」
「!」
「私……さっき初めて聞いたばっかりなのに…封印の器って聞いても、知ってるような顔して……護衛って…」
「知らなかったのか…自分が封印の器ってこと…」
「っ何にも知らないよ!!どうして教えてくれなかったの!?」
「…俺も最近聞かされたばっかだったんだよ。それに聞いていいことだったのかも分かんねーし…しょーがねーだろ。それよりロンさんの話しを…」
「……ない…」
「は?」
「護衛も同情も……いらない…っ」

私はそう言うと、初めてシカマルを睨みつけた。同時にグローブをしている腕がズキンと痛み、顔を歪めて俯きシカマルに背を向ける。しかし、徐にがしりと腕を掴まれて、体の動きを止められた。

2014.04.28

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