封印の器

「失礼します…」

恐る恐る火影室に足を踏み入れた私を待っていたのは、言わずもがな木の葉の里の5代目火影様。かつてナルトの師匠だった自来也様や、木の葉崩しの首謀者だった大蛇丸と共に伝説の3忍と言われたうちの1人で、医療忍術のスペシャリストだ。

「…シズネ、悪い。少し席を外してくれ」
「あ、分かりました」
「えっ!?シズネさんどっか行っちゃうんですか?!」
「なんだ、何か問題でもあるか?」
「い、いえ…」

有無を言わさないとばかりにじろりと私を見る目付きが刺さって思わず後ずさった。5代目火影である綱手様は医療忍術のスペシャリストであると同時に、超怪力馬鹿力のスペシャリストである。逆らったら殺される、なんていうのは言い過ぎかもしれないが強ち間違っていないと思う。じゃあね、と言いながら部屋から出て行くシズネさんを目で追っているとキイ、という音がしたと同時に体をびくりとさせた。あ…火影様が動いたから椅子が軋んだだけか…

「急に呼び出してすまないな」
「い、いえあの…お話があるって聞いて…」
「ああ………本当はもっと前に話しておくべきだったんだが…」
「?」
「お前の故郷のことだ」
「えっ!何か分かったんですか!?」
「分かったんじゃない。…知ってたんだよ」
「え?」
「ただ…知るにはお前が幼すぎると思っていた。が…そうも言ってられなくなりそうだからな…」
「もしかして…この腕のことも何か知ってたり‥」
「…ああ。お前のソレは、3代目から何と聞いた?」
「さ、3代目火影様からは…私の両親が私に託した"痕"だと…その"痕"は忍としてしか生きていけないモノだから、とにかく自分の身を守る為に強くなりなさい、約束だって…」
「…忍としてしか生きていけないモノか…」

ふう、と溜息を吐いた火影様が椅子に背を預けて腕組みをする。なんというか、その3代目火影様の言葉通りに強くなるはずだった私は今現在中忍だが、その中でも弱い方の忍で火影様の言葉はまだ守れていない。

「最初から話す。よく聞け」
「あ、はいっ!」
「その昔、戦いの時代にも関わらず木の葉と友好条約を結んでいた数少ない里があった。光の国、コウの里…それがお前の故郷だ」
「光の国?」
「ああ、今だ謎の多い国だ。しかし、この国はもうどの地図にも載っていない」
「え、ど、どうしてですか?」
「修羅の国の警護人達の手によって街、地図、‥全てが消されたからだ」
「消さ…て、修羅の国って一体なんですか…?」
「別名"忍殺しの国"。その国の1番上に君臨する王が忍を毛嫌いしていたんだ。そして修羅の国に危険思想を感じたコウの里の人間が立ち上がった。が…全滅した」
「…」
「しかし、光の国という所はコウの里も含めかなり閉鎖的でな、修羅の国も相当な被害にあったらしい。コウの里は特殊な血継限界を持つ一族も多かった。だからその力を根絶やす為に全てを消し去ったんだろう」
「全てって…じゃあなんで私生きてるんですか!?」
「その前にもう1つ。コウの里には他の里にはない"役割"があった。お前、霊獣…四神獣のことは知っているか?」
「シシンジュウ?」
「五行を創生したと言われる伝説上の生物だ。その生物はコウの里の1部の人間が体に封印していた。その1人は…日暮硯シキミ…お前の母親だ」
「え?!」
「そのシキミの腹に命を授かったばかりのお前がいたのが分かった頃、修羅の国を滅ぼす計画が出たそうだ。もちろん自分達が死ぬ予想をしていたんだろう。コウの里は四神獣を守る為の里でもあり、神獣が封印されていた日暮硯シキミが死ねば、器を無くした神獣を守ることができない。だから…未熟児のままのお前を無理矢理出してお前に封印した。そして、それをコウの里の長であった人物が届けに来たんだ」
「じゃあ…この痕‥刺青模様って…」
「日暮硯シキミの封印術。本来心臓の位置に封印するはずだったが、当時のお前はなんとか生きているのが精一杯。それで負担をかけないようにと腕に封印したそうだ。…お前は日暮硯一族が代々守ってきた"青龍"という神獣の、封印の器だ」
「封印の、器…」

真面目な顔のまま言い切った火影様に「冗談やめてください」なんて言えるわけがない。っていうかその話しは何?本当のこと?木の葉の里の出身じゃないのは分かってたけど、私はそんなよく分からない国から来たの?他人事のように口から出るのは「え」ばっかで、頭の中はフリーズだ。

セイリュウって、青い龍って書くやつ‥だっけ‥。あの馬鹿でかい巨体を思い浮かべながら目を丸くして腕のグローブに視線を落とす。これ、お母さんの封印術、だったんだ…。しかし待てよとクエスチョンマークが頭に浮かぶ。ロンさんからは兄がいると聞いたばかりだ。だったらなんで私じゃなくて兄に封印しなかったんだろうか?顔を上げると、一区切り話し終えた火影様が私を見ていた。

「…隠していて悪かったな」
「いえ!でもあの…私、兄がいると聞いたんですが…」
「‥誰にそんなことを聞いたんだ?」
「え、えっと…日暮硯一族と契約を結ぶ口寄せ動物の狼なんですけど…」
「ああ、ロウか」
「あ、いえ、ロンさんに…」
「は?お前あんな奴呼び出してるのか?」
「え?あ、た、偶々この間お会いして…」
「あいつは気性が荒すぎるからお前向きの口寄せじゃ…と、まあいい。兄貴だったな?それがどうした?」
「封印の器はどうして私だったんですか?兄でも良かったんじゃ…」
「封印の器は女だと決まっていたらしい。そこまで理由は分からんがな」

成る程…って、納得してる場合じゃないか。この腕の刺青に、そんな意味が隠されてたなんて。立ち尽くしたまま百面相をする私を見ながら、火影様はずずっと机に置かれているお茶を啜る。確かにこんなことをもっと前に聞かされていてもしょうがなかったかもしれないと頭を掻いた。

「…案外冷静なんだな。もっと慌てふためくかと思っていた」
「これ以上言われるとキャパオーバーです…」
「問題はここからだ」
「へ?」

面倒くさそうに長い溜息を吐いた火影様にぞくりと背筋が凍った。ああ、嫌な予感…!?後ずさりしそうになる足をなんとか持ち堪えると、苦い顔をした火影様は窓越しに見える木の葉病院へ視線を移していた。

2014.04.26

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