諦めるにはまだ早い

「シカマル君が…?」
「うん…それで、ハヤさんのこと好きだって」
「…そっ、か」

いやあ、なんで私ヒナタにこんなこと相談してるんだろ。ヒナタに相談したって意味ないなんてことは思ってないけど、でもこんな相談されてもヒナタだって困るだろうに…眉尻を垂れさせるヒナタは、動揺するように目線を右に左に揺らしている。そういえばヒナタはハヤさんのことを知っているのだろうか?一緒にいる所見たことないけど…

「……コトメちゃんは、シカマル君がハヤちゃんのこと好きだったら諦めちゃう…?」
「ハヤちゃん?ヒナタってハヤさんと仲良いの?」
「あ…うん…ハヤちゃんとは昔から仲良くさせてもらってるんだ」
「そうなんだ……うーん、諦める…方がいいとは思う。なんか、入れるような隙間がないように見えたんだよね…でも、諦められるかなあ…」
「諦めるのは…簡単だよ。でも、"本当に"諦めるのって…凄く難しいと思うんだ」
「"本当に"諦める…?」
「うん。"本当に"諦めるって…好きだった想いを忘れるってことじゃないかな…」
「…忘、れる…」

ヒナタを見てハッとした。そういえばヒナタがずっと想っているのはサクラをずっと想っているらしいナルトだ。今の私が置かれている状況とそっくりで、思わず息を飲む。

「私…ナルト君が誰を思ってても大好きって気持ちだけは変わらなかった。ううん、忘れたくなかった…諦めるなんて選択肢がなかったの。コトメちゃん、‥シカマル君のこと、今でも好き‥?」

シカマルのこと…?そんなの、今でも…もちろん。私の目から視線を外さないヒナタに口篭る。だって…シカマルはハヤさんが好きなんだよ、シカマルの口からはっきり聞いたんだよ。好きだからこそ応援してあげたい気持ちだって、ないわけでは‥ない。

「コトメはてめーらなんかよりずっとひっしなんだよ。バカにすんならそれいじょうのことでもしてからバカにしろっつーの」

誰も知らないと思ってた秘密の修行をしてたことも彼は見てくれていた。めんどくせーとか言う割りには、面倒見がよくて忍術も体術も幻術もからっきしダメだった私をバカにする同期に、いつも対抗してくれてた。彼のぶっきらぼうな優しさが嬉しかった。その優しさを向けられる度に温かくなる心…それが恋だと気付いたのはそれからすぐのことだったと思う。色んな思い出を辿ってみると改めて感じてしまう。あのぶっきらぼうな優しさも「大丈夫だ」なんて言いながら笑みを浮かべる顔も心配そうな目を向ける視線も、私には到底忘れることはできない…シカマルが誰を好きでもやっぱりシカマルが好きなことに変わりはない。

「…ダメだ」
「コトメちゃん…」
「…やっぱり、諦める方が無理かも」
「!」
「ありがとヒナタ。私もう少し頑張ってみる」
「う、うん…!」
「お、いたいた…!って、ヒナタも一緒か」
「イルカ先生?」

力なくヒナタに笑いかけると、少しだけほっとしたように頬を緩ませるヒナタの後ろから、よく知る声が響く。何故か落ち着きなくこちらへ駆けてくるのはイルカ先生の姿だった。私に向かってちょいちょいと手招きをすると、しょうがないなあと溜息を吐きながらヒナタへ振り向いた。

「今日の話しはヒナタと私だけの秘密だよ?」
「うん!」
「じゃ、またね!」

ひらひらと手を振るヒナタに背を向けると腰に手を当てたイルカ先生に近寄って行く。‥んん、任務かな‥。今度こそ、この間みたいな任務だったとしても、せめて足で纏いにだけはならないようにしないと!顔をこれでもかと引き締めるとイルカ先生の言葉を待った。

「5代目がお呼びだよ」
「…へ、へえ?」
「なんでも話したいことがあるそうでな…って、コトメ?」

なんかしたっけ?!何も思い当たることはないのに、急激に不安になった私は引き締めていた顔を青くさせる。厄日か?今週は厄日の塊なのか?おろおろとする私を見たイルカ先生が「お前本ッ当にいつまで経っても変わらないな…」と呆れた視線を向けていた。

2014.04.20

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