団子より華

「ぶ、無事ついたぁ……」

あの奇襲の後、またいつ襲われるか分からないと緊張も解けずにいたが、結局風の国に着くまで何も問題は起こらなかった。よかった、本当によかった…と深く息を吐いた所で私達は風影室へと歩いていた。

「白魚上忍、美味しい飯でも食いにいかねえ?高級食材もそろってて、シェフの腕もかなりのモンなんだ」
「すみません。私、高級食材には全く興味がありませんので別のお方をお誘い下さいな」
「だったらフッツーの美味い定食屋もあるぜ!」
「普通なのか美味しいのか分かりませんね。大丈夫です、私のこと等気になさらずに。間に合っておりますので」
「じゃあ…」

この目の前の野郎、もうずーっとハヤさんにべったりだ。奇襲の後くらいからこんな調子で頑張ってる。多分戦闘中のハヤさんが美しすぎたんだろう。敵の抜忍達の何人かも見惚れてたらしいし(ナルトがここへ向かう途中で教えてくれた)。全く見向きもされてないのによくやるよ…

「よく来たな。歓迎するぞ、木の葉の護衛」

風影室の近くまでくると、ドアの前でいかにも気の強そうな女の人が待機していた。黄色の髪を四つに縛って、背中に大きな扇子を背負っている。

「テマリじゃねぇか!久しぶりだなー!」
「…お前は相変わらずだな、ナルト。王子は隣の部屋へお通ししてくれ。風影室で我愛羅が待ってる」
「我愛羅と会えるのか!」
「ああ。ナルトやカカシさんが護衛と聞いて今日の仕事をカンクロウに押し付けていたからな…」
「はは、よかったな。ナルト」
「我愛羅も綱手のばーちゃんみたいなことすんだな…」

はは、と呆れた声は出すものの、嬉しそうなその表情に本当に風影様と仲が良いのが分かった。すごいなぁナルトは…私と同じ歳なのに。木の葉の英雄も伊達じゃないなぁ。ナルトを見ながらそうぼんやり考えているとカカシさんが「あ」と言いながら私とハヤさんを指差した。

「今回護衛についている上忍の白魚ハヤと中忍の日暮硯コトメだ。2人共、この人は風影様のお姉さんに当たる方でテマリさん」
「初めまして。白魚ハヤです」
「日暮硯コトメです!」
「こちらこそ。…へぇ、お前か。噂の"五月雨"ってのは。こっちでもよく名前を聞くぞ」
「尾鰭が付いていないといいのですがね」
「…食えない奴だな。まぁ確かに、周りがそう噂するだけはある」

うふふ、と笑いながらハヤさんが喋る側でナルトが「一体何のことだってばよ?」と私に耳打ちしてきた。多分美人で有名なのをテマリさんが聞いたんだよと返答すると、ああ、成る程なぁ。と納得しながらもでも俺ってばハヤのねーちゃんすっげー怖いんだよな…と眉を八の字にして零していた。ナルト、それすっごく分かるよ。

「王子、もう少しで迎えが来ますのでどうぞ隣の部屋へ」
「いや、俺も一緒に風影室に行く」
「「「「「はい?」」」」」

思わず皆が「は?」と言わなかったのは相手が王子だからという条件反射だ。だって王子と風影様は別に会う必要もないもんね?まあ、会わない必要もないけど…。んん、と首を傾げるとテマリさんが困ったように口を開いた。

「王子、貴方が風影様を苦手だと仰ってたから部屋を別に設けたのですよ」
「気が変わった。白魚上忍と一緒なら別にいい」
「別にいいって…」

あんたハヤさんと一緒にいたいだけじゃないか!!と、私の心の声が叫んだ(多分皆一緒)。テマリさんは大きく溜息を付くとまあいいやと風影室への扉を叩いた。

「我愛羅、護衛の者が到着したぞ」
「…どうぞ」

キイ、とドアが開いた先には、緩くウェーブのかかったショートヘアに緑色のメッシュが入った眼鏡の女の子と、額に「愛」という文字の入った赤い髪の人物である風影様がいた。

「我愛羅!久しぶり!マトイもいたのか!」
「あは。久しぶりー、ナルトさん」
「…相変わらず元気そうだな、ナルト」
「おう!」

表情があまり変わらないから分からないが、風影様も喜んでいるらしくナルトが机に乗り出していた。

‥っていうかあの女の子とも知り合いなんだ。顔広いなあほんと。カカシさんも2人の知り合いらしく、軽く会釈を返す。テマリさんはいつもの光景だな、と笑っていた。ハヤさんの後ろでは王子が少しビクついている。…怖いなら隣の部屋にとっとと入ってればいいのに。

「テマリ、王子を隣の部屋に」
「いや。本人が一緒に入ると言うのでな」
「そうか。…ナルト、この2人は?」
「あ、まだ会ったことねぇのか!えーっと、こっちがハヤのねーちゃんでこっちがコトメ!」
「初めまして、風影様。上忍の白魚ハヤです」
「ち、中忍の日暮硯コトメです!よろしくお願いします!!」
「…我愛羅だ。こちらは秘書の要石マトイ」
「どーもー。要石(かなめ)マトイですー」

ハヤさんとは違う感じのふわふわ感を醸し出す笑顔に、この人秘書なんだぁ、私と変わんないくらいなのにすごいなぁと感心した。この人のふわふわ感はマイペースというかゆったりしてるというか、そんな感じだ。

「ヒショだなんて照れるなってばよー我愛羅!」
「秘書であることも本当のことだ」

何故かニヤつくナルトと共に私達はソファへと案内され、ほぼナルトと風影様の昔話に付き合わされていた。

2014.03.12

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