ぽつん。少し惨め

「ふあーぁ…ったく、オヤジめ、護衛なんていらねーっつったのに…しかも4人も」
「まぁまぁ。お父様も心配されているんですよ」

どこかの誰かさんみたいにめんどくさそうで眠そうな護衛の対象である王子様はまるで王子様らしくもない振る舞いだか、やはり身につけている物は高価な物ばかりだ。前をカカシさんが、後ろをナルトとハヤさんと私で固めている。どうやらこの王子様は旅行者らしく、もっと遠くの国の人なのだそうだ。

「つーかそれより俺の隣歩くならあの人がいいんだけど」

後ろを振り向いて王子様が指をさした先にいるのは私‥ではなく、右側を歩くハヤさん。「まぁ」と言いながら右手で口を抑えとろけるような笑顔を向けてはいるが、右手の下に隠れた口からは「王子とか全然興味ありませんのでカカシさんがどうにかしてくれないでしょうか」と呟いているのが分かって身震いした。怖い。

「これも貴女様に何かあった時のための作戦で配置を決めておりますので、申し訳ない」
「チッ、そーかよ」

さすが美人は違うなぁ。私なんて見向きもされないのに。だいぶ里から離れた森の奥に陽の当たるぽかぽかしたいい場所を見つけ、そこで休憩を取ることにした私達は各々王子様を囲むように座った。もちろんハヤさんの隣には王子様が座っている。カカシさんは苦笑いしながら小さい水筒に口をつけていた。

「この調子だと夕方には向こうに着くな」
「な、なんにもなさそうでよかったぁ…」

ほっと息をついてちらっとカカシさんを見ると苦笑いを浮かべて「油断はするなよ」と私に告げた。いやぁ分かってはいるんだけどやっぱりなんでもないに越したことはないじゃないですか。そう言ったらまだまだ甘いねぇ、と返された。ふーんだ。どうせまだ甘ちゃんの中忍ですよ。

「なぁなぁカカシ先生、我愛羅にも会えっかなぁ?」
「さぁーね。我愛羅君はナルトと違って毎日忙しいし、ま、カンクロウ達にでも会って聞いてみたら?」
「一言余計だってばよ」
「風影様を名前で呼ぶなんてさすがナルトだね」
「俺にとっちゃ我愛羅は友達だかんな!」

にか!っと笑うナルトに私も笑みを返す。その瞬間ハヤさんが突然立ち上がったかと思うと背中に背負った弓を片手に真上の木に鋭い視線を向けていた。

「…さっすがハヤちゃん」
「気付いていたのならもっと警戒してくれませんか?」
「ん?いやぁ、まだ出てこなさそうだったからさ。とりあえずそっちはお願いしていーい?ナルトとコトメちゃんは王子様お願いね」
「え、え、え?!」
「任せろってばよ!!!」

ウソ!!いつの間に上に?!なんて私が気付いた時にはもうカカシさんもハヤさんもナルトも、っていうか王子様までが複数に囲まれた敵の気配を察知していた。

「あいつの身包みを奪え!!」
「やーっぱ金品狙いか。抜忍も金がないとやってけないもんねぇ」

飄々と攻撃を交わしながら確実に敵をなぎ倒すカカシさん、お得意の弓で相手を動けなくするハヤさん、影分身で相手を拘束するナルト。

「…動くなよ」

3人が戦う中私1人おろおろしていると背後から聞こえてきた声に振り向く。嫌な笑顔を向けた1人の忍がぐぐっと私の首にクナイを当てた。

「ひ、」
「へぇ、なんにもできねぇチビがいるな。お前、本当に忍か?」
「コトメ!!」
「そこの王子!!コイツを切り刻まれたくなかったらこっちへ来い!!」

動け、ない…!!

じたばたするとクナイが首に食い込んで一気に喉を掻き切られる可能性もあり、私は抵抗することができない。っていうかだからなんで私をこの任務に入れたのよー!顔を真っ青にしていると王子様を影分身に任せたナルト君がこちらへ走ってくるのが見えたが、それはカカシ先生の声によって止められた。

「ナルト!そっちは大丈夫だから王子様の所に戻れ!」
「何言ってんだってばよ!!このままじゃコトメが」
「こっちに来ねぇならこのまま殺す!」

カカシさん!私この状況どうにもできないです…!!やばい、死ぬ…!!!!

「ぐァッ……!!」
「もう1人いるの、気付いた方がいいですよ」

もうダメだとそう思った瞬間、冷ややかな声が聞こえたと同時に背中が濡れる感触がした。体が自由になったことに慌てて振り向くと暗部装束を身に纏った兎の面が見えた。ドサリと倒れたのはもちろん先程まで私の首元にクナイを当てていた忍。恐る恐る背中に触れると敵の忍が吐血した血が手の平を真っ赤に染めていた。

「ひ…!!?」
「ゲ、あん時の…!!」
「…余所見してたら今度こそ殺られますよ」
「追ってきてたのね、トモリ」
「戦闘に出る予定はなかったんですけどね。誰かさんが無言の命令をするもので」

カカシさんの知り合いなのかな。‥そもそもなんで暗部までこんな所にいるのか。頭も全く回らない私は皆のお荷物にだけはなりたくないと参戦したものの自分の身を守るだけで精一杯だった。

2014.03.08

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