会いたい

「‥‥嘘、だって、」
「嘘なんかつくかよこんな状況で」

だって。その後の言葉が続かない。‥でも、カカシ先輩の時程心は乱されない。驚いてはいるけど落ち着いている。ただ分からないのだ。こんなに忍としてしか生きられない、魅力もない私を好きになる理由が。

「‥ゲンマ先輩は」
「?」
「どうして私が好きなんですか」
「聞くのかよ。‥1人で必死に生きてる姿にだって惹かれた。なんでだよって言いたい程には女としての色気だってある。強いけど危なっかしい。‥側で支えてやりてえ」
「‥」
「理由なんて‥たくさんあんだよ、バカが」

むすくれたゲンマ先輩は、それだけ言うと頭を掻いて黙り込んだ。‥何かを言った方がいいのだろうか‥考えた所で何も思いつかない私はやはりバカなのかもしれない。

「‥‥‥お前は」
「‥なんですか」

ふとした声に顔を上げると、悩んだ末に絞り出した言葉を紡ぐ彼の姿。その先を聞きたくない気がする。左肩の痛みだけを気にするように視線を逸らした。そういえば、さっきの忍2人のことはゲンマ先輩に言うべきだろうか。恐らくご意見番の2人から送られてきた刺客。‥いや、里内でのいざこざはあまり公にさせたくない。

「カカシのことが好きなのか」
「‥‥ちが、違う‥そんなんじゃ‥」
「ずっと感じてはいたけど‥‥やっぱ、そうなんだな」
「‥分かりません。そんなの、私が分かるわけない‥」
「は‥?」
「‥昔から感情の起伏がなかったのは、恐らく母親の影響です。だから、カカシ先輩が好きなんじゃないかと聞かれても、分からないんです‥」
「じゃあ俺のことは」
「え」
「俺のことは好きかって聞いてんだけど」

ゆっくりと起き上がったゲンマ先輩が、私に近付いてくる。ちょっと、怪我はいいのか。後ずさった拍子に背中に当たった壁が、逃げる場所なんてないと伝えてくるみたいだ。トン、と言う壁にぶつかった音とゲンマ先輩の手が壁についた音が重なった。

「‥‥分かりません」
「だろうな。‥や、悪い」
「‥あの、こんなことしてる場合じゃないかと」
「そうだな。‥でも、邪魔がいないのも今だけだ」
「‥そういえば」

護衛だと言っていたカカシ先輩の気配がない。別の任務でも入って、別の奴がついているのだろうか。‥まあ正直、護衛なんて私にはいらないけれど。

「‥痛いか」
「ゲンマ先輩こそ」
「ちげえよ。‥何も感じないって、痛くないのかよ‥」

心が。ぼそりと呟いたその言葉に、ずきりと軋むなにか。固まっていた私の唇にそっと触れた柔らかい暖かさ。‥どうしてだろう。欠けていた何かが戻ってくるような不思議な感覚。

「私は‥‥どうしたらいいですか‥」
「‥?」
「ここに、居たいのに‥‥カカシ先輩の隣は心地良いって、ほんの少しでも思ってるのに‥っ‥」
「ウミ、お前‥」
「ごめんなさい、ゲンマ先輩‥‥私、カカシ先輩に、会いたい‥っ‥」

2017.03.10

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