掻き乱される信念

手から迸る千度の炎が人間の身体を焼き尽くしていく。吐きそうな臭い。どんな人間も、声を荒げるのを我慢することなど不可避。現に今目の前で私を痛めつけていた男は、悲痛な叫びを上げ続けていた。

「‥私のことを色々聞いていたかもしれませんが、長期任務に出てからさらに色んな術を使えるようになりました。もちろん、仲間の為に生み出した私だけの術です。‥当然ですよね。もっと強くならないと守れないんですから。‥‥‥そっちの貴方は見ているだけですか」
「そうねえ‥今出たら巻き込まれちゃいそうだし」
「仲間ではないんですか。随分薄情な方ですね」

ザザが燃えているのを見ているだけの気持ち悪い男(女というべきか‥)は、溜息を吐きながらゲンマ先輩に手を伸ばした。

「触るな」
「‥」
「今度は貴様も燃やす」
「ふふ、そんなマジな顔しないでよ、この人はこのまま返してあげるから。その代わりにそこの黒焦げになりそうな相方を私に返してくれる?」
「‥残念ですが私の焔上煌炉は外からも中からも全てを焼き尽くします。水を被っても外の炎しか消えない。返しても‥帰ってきませんよ」
「そうなの?まあ、じゃあ残念ね。あ、いいわよとりあえずこの人は返すから」

にこ、と気持ち悪い笑顔を向けたと思ったら、ゲンマ先輩から離れ、今だ起き上がれていない私の目の前に現れた。殺られる。そう感じたのに私を無視して燃えるザザを手に掴むと、印を組んで水遁の術を繰り出していた。

「熱ッ!!‥真っ黒‥っていうか焼け爛れてるわね〜」
「あ ‥あ"‥っ‥」
「無理だって‥‥言いませんでしたか」
「どうせ死ぬなら貴方の新しい情報くらい伝えてもらわないとねえ?」
「死ぬまでは追い続ける‥‥そういうことですか‥‥」
「同じ里の仲間の筈なのにね」
「‥‥」
「中途半端になったから怒られるかな‥ま、いっか」
「発端は‥‥‥‥‥‥‥‥ホムラ様、ですよね」
「勘が良い子、私は好きじゃないわ〜。あ、あっちの、早く治療してあげないとマズいわよ。‥じゃ」

その言葉を最後に、ザザを連れてツゲは煙と共に消えてしまった。それよりも早くゲンマ先輩を治療しないと‥。起き上がる為に右腕に力を込める。

「勘が良い子、私は好きじゃないわ〜」

否定されなかった事実が頭をよぎる。気がつくと、地面にぽたぽたと水滴が零れ落ちていた。








「‥大丈夫ですか」

がば!!と起きると、洞窟のような場所に俺は寝かされていた。貫通していた鳩尾に手を当てると、雑ではあるが塞がっている。誰が。つーかウミしかいないか。で、ウミは?と頭が追いついた所で後ろから声が聞こえた。怪我していたはずの左肩は固定されている。器用な奴だ。そう思うと同時に傷に強烈な痛みが走った。

「っっっで!!!?!」
「馬鹿じゃないですか。私は医療忍者ではないんですからできることしかできてません。傷塞いだくらいもいい所です。動いたらすぐ開きますよ」
「つっても‥簡単な治療はしてくれたんだろ、サンキュ‥」
「‥いえ。その傷は私のせいでできた傷ですから」
「俺が勝手に庇っただけだ。つーか庇ってくれたことに有り難みを感じろよ、申し訳なく思われても助けがいねえだろ」
「その傷でよく喋りますね」
「‥あいつらは?」
「1人は重症‥いえ、もう死んだかもしれません。もう1人が連れて消えましたが」
「そうか‥お前、腕は」
「大丈夫ですよ。固定してるし、なんとか繋がってます。増血剤も飲んでますし問題ありません」

そう淡々と答えながら、臭いのキツイ葉っぱを右手だけですり潰している。心なしか目が腫れてる‥ような、なぜかすごく悲しそうな、泣きそうな‥そう感じた俺は、気を失う前に考えていたことを思い出してぐっと拳を握りしめた。

「‥あのさ」
「なんですか」
「お前ってなんか隠してるよな」
「‥‥隠し事の1つや2つ、誰でもあります」
「そうだな‥俺もお前に秘密にしてたことあるしな」
「聞きませんから大丈夫ですよ」
「ウミが好きだ」
「聞いてな‥‥‥‥‥ は ?」

その時初めて、俺はウミが驚きと困惑が入り混じった声色を聞いた。

2016.03.11

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