上辺じゃねえよ、

炎が舞い、森を焦がすような臭いが立ちこめる。なんとか意識を保ってる俺の上では、鈍い金属のような音と風を切るような鋭い音が続いていた。

「ねえアナタ、イイ男だって言われない?」
「…俺も只では死なねえ、ぞ」
「あらヤダ。勘違いしないでよォ、世間話しにきたの。それにイイ男を殺す趣味はな・い・の」
「…はあ?」
「アナタ知らないでしょ。"朱雀"も、その"秘密"も」
「朱雀…?」
「封印の器のことも知らないの…どこに行ったって孤独ね。可哀想」

呆れたように薄ら笑いを浮かべる敵のはずのそいつは、激闘を観戦しながらその場に腰を降ろしていた。よく言うな、俺の腹に風穴をあけたのはどこの誰だってんだ。嫌悪感丸出しで睨みつけてみる。が、そもそもコイツにはもう殺意が感じられなくて拍子抜けしてしまった。

何がしたいんだコイツは。つーかなんでだ、ウミは敵なんだろ、それなのに……朱雀って、なんだ…?俺はウミのこと、何も知らない。何かあるんじゃないかってことは薄々だが気付いていた。でもそれは俺が介入しちゃいけないことだって言い聞かせていた部分もあった。敵の口からその秘密を聞くなんていいのか。ぐぐ、と血に濡れる布を握りしめていると、バカバカしいわね、と高い声が耳についた。

「何が、バカバカしいって…?」
「世の中欲しい物の為にはどんな手…も、使うのよ。破滅と紙一重でも、求めちゃう人だって、…っ…てこと。だから求める前に消せばいいっていうことでしょ…まあ………いうの、私はよくわかんないけど〜…駄目……よね、ザザは涼しい顔して……熱いから」
「何の話かわか、ねえ、よ…」
「あ……女の子……、"復……必よ……、…器、……てる…?」

くそ、血が、足りねえ。頭に靄がかかる。ここで意識失っちまったら、誰がウミを助けられるんだよ。溜息を吐いた女男みたいな敵の顔が掠れて、瞳に映る。酷く可哀想な目で見ていた気がする。狙っていたのは間違いなくウミ自身だと確信した。のに、俺は何もできない。

やっぱ……フェアじゃねえよ、カカシ。俺も、ウミのこと、ちゃんと知りてえ。








「ゲンマ先輩!!」
「さっきからお前人の心配してる場合じゃねーだろ」

横目で確認した先に、目の前のザザという男の仲間がゲンマ先輩の横にいた。哀れみの瞳が向けられている。唇を噛むと、ザザの繰り出してきた左足を自分の足で止めた。こいつの蹴りが、尋常じゃないくらい重い。相当鍛錬してきたらしい。こんな涼しい顔して。

「お前さっきから俺の蹴り受けてっけど、結構きてんじゃねーの?」
「っ…冗談は顔だけにしてください、軟弱な顔して」
「…ハ、言うね」
「!」

意表をつかれたローキックで地面へと打ち付けられた左肩が悲鳴をあげる。そのまま左肩を踏みつけると私の歪んだ顔を見て、ザザが笑った。

「お前の秘密里全員が知ったら追い出されるんじゃねえの」
「…」
「今やってることは"優しさ"だ。里の為になる"死"。…そう思った事くらいあるだろ?」
「…」
「安心しろ。全員殺す予定だ」
「殺しても私の"中"にいる子が死ぬわけじゃない、それに殺すなら…1人で充分でしょう」
「皆封印するつもりなんだよ。それに…器の主になるにはその"血"だ。それさえ無くなれば、」
「人の為にチャクラがあったわけじゃない…この子達がいなければいつか必ず自然の摂理は崩壊します」
「そんな到底先の未来のことなんてジジババは考えねえよ」
「…、やっぱり、そうですか…」

わざわざ口を滑らせてくれたことに感謝し、そして落胆した。じわりと地面に血溜まりができるのを見ながら、ザザの足首を右手で掴んだ。

「秘術・焔上煌炉!!!」

2015.11.27

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