全部無くなればいいのに

あの頃の修羅を、必ず再建する。その為にはまず忍の存在等あってはならない。

昼時だというのに、暗くジメジメとした地下のお城のような場所で、1人端にある椅子に腰掛けている人の姿があった。何かをずっと考えるように壁の1点を見つめている人物は、風貌はまるで美しい女性のようだが、れっきとした男である。男はいつもいつも同じ場所で何時間も居座っていることが多い。1つの大きい本棚と、大きなベッド。そして、コーヒーカップがギリギリ2個置けるくらいの小さなテーブルに、座ってる椅子のみがあるだけの質素な空間。しかし、部屋の大きさだけは無駄に広い。

その為に封印の器達を"回収"…まずは"アレ"を復活させる…そして忌々しい光の国 -- 密かに生き延びているコウの里の忍を消し、五大国は必ず潰す。

「王、木の葉に出しタスパいカら密書デす」

静かに開いた扉に気付くと、男は思考を中断してそちらにゆっくりと目を向ける。そこには、右斜め上から左斜め下に引かれた3本の線を額当てに刻んだ顔の無い忍が1人、ぴしりと姿勢を正していた。喋れる口がないのに、片言の日本語と抑制の無い声が部屋に響く。男は密書を受け取ると、中身に目を通して床へと投げ捨てた。

「捨てマしょウか」
「ああ」
「ちゃんト仕事ハシテイるみたイでスね」
「…どうだかな」

「さっさと持ち場に戻れ」と男は目の前の忍に吐き捨てた。巻物を寄越してきたのは、幼い頃に木の葉にスパイとして送った一人の女、夕虹トドメ。木の葉では留目ユニと名前を変え、定期的にこの男へ木の葉の動向を記した密書を送るようになっていた。だが定期的とは言っても"昔は"の話だ。月に1回の密書も、今では3ヶ月に1回あるかないか。どうこう言う事がないこの男だからこそ、密書が送られてくる回数も減ったのではないだろうか。

「……レノウにトドメのことはお前の判断に任せる、と伝えておけ」
「かしコマりまシた」

表情を作れるものが何も無いのに薄ら笑ったような笑みが見えた。目の前の男が出て行くのを見送ると、机の上に置かれている本を開いてとあるページを破り、ライターで火をつけて床へ捨てると、そのまま足でぐりぐりと踏みつぶした。

「…」

本のページには、男の仲間らしき人物達の写真と詳細。そして、封印の器達の写真と詳細が細かに記されている。その内の1人のページを見て口端をつりあげると、大事な物に触れるように写真に掌を滑らせた。








「お前、ご意見番に何言われたんだよ」
「先程伝えましたよね。今回は2人の抜忍の暗殺が任務。ただ、ビンゴブックとは顔が違う、情報がまるでない忍がターゲットであると」
「そうじゃねえ、それ以外にだ。さっきから顔がずっと怖いっつってんだよ」
「元々こういう顔でしたが」
「さすがに常時そんな顔はしてねえから」

さっきからしつこい人だと、思わず口から溜息が漏れた。今私とゲンマ先輩は、今回の暗殺ターゲットである2人の目撃情報が多い雨隠れの里へ向かっていた。もちろん、ご意見番から言われた通りに暗殺が任務であること以外は何も伝えていない。…が、何故かゲンマ先輩は不信そうに私を見ている。大体ご意見番が話題に出た時点で気分が下がるっていうのに、つい先程の会話も思い出して二重で気分が悪い。

「なんか知らねえけどお前ご意見番とはエラく犬猿の仲だからな…なんかあったんなら話した方がすっきりするぞ」
「放っておいてください。それより5日で雨隠れの里に行きたいんですから遅れないでくださいよ」

木の葉を出て既に夕刻を過ぎたところだが、以前雨隠れに任務に出た時よりも進むスピードが遅い。多分、私が無駄な事を考えすぎているからだろうと溜息を吐いた。ご意見番のことも、……カカシ先輩の、言葉も。

「そろそろ野宿する場所考えとけよ」
「別に今日1日走りっ放しでも行けますよね」
「俺に拒否権ねえ言い方されてもな…」
「……もう…終わらせたいんです」

小さな声でぽつりと零してしまった言葉は運良く強風の音で消されていて、ゲンマ先輩に届く事はなかった。

2015.05.22

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