続・秘密を背負うのは慣れた

「…私……」
「よかった!起きなかったらどうしようかと思って…」
「どけカカシ。邪魔だ」

ノックもなしにドアを開けて、カカシ先輩の言葉を両断したのは他でもない5代目だった。後ろには両手に松葉杖をつく(多分)テンゾウ先輩の姿。カカシ先輩が心配そうな目を私に向けているが、何がどうなって病院にいるかがイマイチ思い出せない。ううんと唸っていると、迦楼羅と会話したことが頭をよぎり、そこからじわじわとあの日の出来事を思い出した。

「…あ、あの…」
「お前は5日前何者かに襲われ、森の中でカカシに助けられた。毒をくらって今日まで寝ていたんだよ」
「5日前…じゃあもうあれから5日も経って…」
「そうだ」

もうそんなに日が過ぎていたのか。しかし、私みたいに呪印を受けた封印の器はまだいないようで5代目の反応は薄い。ふと先日の任務に行く前の記憶が蘇る。あの日私と同じ封印の器がいると5代目は確かにそう言った。あれは確か……空色の髪の…

「日暮硯……日暮硯コトメは…」
「ああ?なんでコトメを気にしているんだ、お前は自分の体を心配しろ。それに私はお前に毒を食らわせた忍の話しを聞きに来たんだ。そいつがその呪印を仕込んだ犯人だろ」
「…はい。毒の塗った千本を突き刺したその時に恐らく呪印も…」
「護衛を襲ってきた仲間ということか…全く厄介な奴が紛れてい…」
「違います」
「……なんだと?」
「私があの場に居たからつけてきただけで、護衛を襲った抜忍とは別の者だと思います…アイツは……"焔"のことを知っていました」
「!!」
「馬鹿な…!その名は木の葉でも一部の人間にしか知られておらんのだぞ!?」
「確かにあの時その名前を聞きました。それと、私が日暮硯コトメを気にする理由はただ1つ…この呪印は器の体から神獣を出さないようにする為だとしか考えられません。だとすると…」
「何故そんなことをする必要がある?それにお前が呪印を受けたとしてもコトメには……まさか、」
「理由は分かりませんが…封印の器全員に呪印をつけることが目的かもしれません」
「チッ、‥‥やはりか」

5代目が舌打ちしているのを聞きながら、私は右肩に受けた呪印を視界に入れた。黒い百合の紋様…元々の花言葉は"恋"の他に"呪い"…まさにその言葉通りだ。毒に強い耐性があったのも、半分以上は迦楼羅のおかげであり本来私が持っていた耐性ではない。カカシ先輩は黙って私の話しを聞いているようで、考えこむように視線を下に落としている。5代目は顎に手を当てると、険しい顔で私を見つめながらごくりと唾を飲み込んだ。

「…木の葉には元々5人の器が居た」

「それは知っています。木の葉に始めて来た時のことは今でもよく覚えているので……ですが、居た、とはどういうことでしょうか」
「1人は先日言っていた日暮硯コトメ。奈良家のすぐ側に在住している。もう1人は日向一族の世話になっていて、もう1人は医療忍者として私の周りをうろつかせている。最後の1人は……現在砂にいるんだ」
「え………どうして砂に…」
「…まァ、手っ取り早く言うと風影と人生を共にするらしい。お前が帰還する前に届けを出して木の葉を離れている」
「…そうでしたか」
「話しはわかった。彼女達には護衛をつけるつもりではいたからな…器から神獣を出さないようにする理由は全く分からんが何かが起こる可能性が高い。カカシ、お前にはウミの特別護衛任務を任せる」
「…分かりました」
「砂にも急いで伝令を出さないとマズイな…ウミ、また何か思い出したら私を呼べ。私は火影室に戻る」
「はい」

そう言って部屋から出て行った5代目を見送った後、松葉杖をつくテンゾウ先輩へ視線をやる。カカシ先輩の言っていた通り入院中で、まだ満足に動かせない体のようだ。

「…さっきの話、本当か?」

下を向いていたカカシ先輩がゆっくりと顔を上げた。さっきの話…"焔"のことだよね。私は一度息を吐き出すと、こくりと頷いた。

「"焔"については3代目と4代目火影、カカシ先輩、僕。後はご意見番の2人しか知らないはずだよね…」
「恐らくですが、深月セナ…彼女も知っていると思います」
「セナか…あいつはまあ、知っていてもおかしくはないけど…」
「どういうことですかそれ」

テンゾウ先輩の言葉にぐっと眉を寄せた。やっぱり彼女は何か知ってたからあんなことを…何者なのか検討もつかないが、テンゾウ先輩が彼女を庇うつもりならと、机の上に置いてあるポーチに手を伸ばした。

「ち…ちょっと落ち着いてよ。隠すつもりはないから」
「セナさんのことに関してはテンゾウ先輩がよく知ってると聞いた時から話しを伺いたかったんです。彼女は何者なんですか」

椅子にゆっくり腰掛けながら、片腕に松葉杖を抱えて頭を掻いたテンゾウ先輩は、なんて言ったらいいものかと唸りながら首を傾げている。それを諭すかのようにカカシ先輩が口を開いた。

「これはお前と同じように極秘事項の1件だが…さっき5代目が言っていた"周りをうろつかせている"医療忍者"がセナだ。彼女はいつか"来るべき日の為"に用意された封印の器なんだよ」
「…来るべき日…」
「そ。でも今のセナはただの医療忍者。その"来るべき日"が来るのか来ないのかは分からないけどね」
「それは私のことを知る理由にはなりません。日暮硯コトメや他の器もお互いのことは知らないんですよ、事実私も日暮硯コトメのことは五代目に聞いて初めて知ったことなのに…それに"来るべき日"の器っていうのも…意味が分かりません…」
「…セナは自分を知りたかったんだよ。彼女は木の葉を出る前何者かにコウの里にいた時の記憶を消されていて、どうしても自分が何者かを突き止めたかった。多分その間に"焔"のことも知ったんじゃないかな…」
「…」
「セナはもう自分が何者なのか分かってるみたいだけど、"来るべき日"の封印の器っていうのがどういうことなのかを今だに調べ続けているんだ。それにあの子人にちょっかいかけたがる性格だし、ウミをからかっただけだと思う。そんなに気にしなくていいよ」
「……はい」

テンゾウ先輩はそう言うと、はは、と苦笑いを浮かべた。セナさんの性格にテンゾウ先輩も散々付き合わされてきたということか…するりとポーチから手を離した私はセナさんが危険人物ではなかったことにほっと息を吐いた。

じゃあ、あの時の忍は?‥覚えているのは、千本を突き刺されたことと、呪印と、黒い百合の紋様。

「黒い百合……」

もやもやとする思考を払えずに、私は困惑の色を浮かべるしかできない。

「っていうか、よく知ってるだなんて言ったのは誰なんだい?」
「カカシ先輩ですけど……あ」
「いやぁー俺より適任かなぁと、ネ」
「「…」」

2014.06.05

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