夢から醒めたら

「今日で5日目か…」

イチャイチャシリーズの新刊を閉じて机の上に置くと今だ目を開けないウミのベッドに腰掛けた。午後6時、任務を1時間ほど前に終えた俺は木の葉病院の一室に来ている。毎日顔は出しているものの、毒の影響なのかウミが目を覚ます気配は見受けられない。

久しぶりの1人暮らし、少し前までは普通だったんだけどねぇ‥なんてぼんやりと思う。同居生活を始めてもうすぐ2ヶ月。その間にウミと過ごした時間はいろんな意味で大変ではあったものの、有意義なものだったと言える。任務が終わっても修業だなんだで家に帰らなかったり、外で夕飯を済ませたりしていた俺が、今ではウミと過ごす時間を気にしてすぐに帰ってくるようになっていた。なのに、たった5日間ウミの居ない家の空虚感と言ったら寂しいもので。ウミが居るという証拠はいくつも部屋に転がってるというのに、肝心の本人がいないだけで随分家の中が広く感じた。

「早く起きてよ…ウミ…」

布団の中からウミの左手を探し当ててぎゅうっと強く握り締める。早く目を覚ましてくれることを祈りながら呟くと、キイ、という音と共に病室の扉が開いた。

「………カカシ、先輩」
「ヤマト…お前、リハビリは?」
「さっきセナからウミの話し聞いて、リハビリしてる場合じゃないと思って急いで来たんですけど…………お邪魔でしたね、僕」
「ほんとタイミング悪いよお前」

松葉杖を両手にふらふらと現れたヤマトを視界に入れてするりとウミの手を離した俺は、あからさまに深く溜息をついた。

「まだ目を覚まさないんですね…」
「…今日で5日目なんだけどね、息してる以外は全く動かないのよ」
「そうですか…セナが少し前にウミちゃんにちょっかいかけちゃったーとかなんとか言ってたんですけど、なんか聞きました?」
「何それ、初耳」
「遠回しに"カカシに愛されてる"って言ったらしいですよ。ウミはその意味に全く気付いてなかったみたいですけど」
「この子が気付くわけないでしょ…」
「先輩も報われないなぁ……どんだけ長い間片想いしてるんですか…」
「お前に言われたくないね」
「…お互い様ということですか。いたっ」

苦笑いを浮かべているヤマトの顔にバシッと本を投げつけると、乱暴にパイプ椅子を出してやる。後輩の癖に生意気なのは変わんないよね。その生意気癖もリハビリすればいいのにと零しながら、ギシッとベッドから椅子に背を預けた。

「…お前いつまで居る気?」
「先輩椅子出してくれたばっかじゃないですか。大体僕だってウミに会いたかったんですから、少しは我慢してくださいよ」
「あーあ、久しぶりにウミと2人きりだったのに」
「久しぶり?」
「あー、お前知らないんだっけ。俺とウミ、只今絶賛同棲中なの」
「はああああぁ?!いだっ!!」
「うるさ…少しは自重しなさいよ…」

驚いて飛び上がった拍子にヤマトの足が悲鳴を上げたらしくそのままずるずると椅子にもたれかかる。バカだねーお前…呆れたようにチョイチョイと右脹脛を突つくと「やめてくださいよ!」と小さく怒鳴られた。

「絶賛同棲中って…そんなこと聞いたの初耳ですよ!」
「戦争終わってヤマトとまともに会話したの今日が初めてなんだから当たり前でしょ…」
「なんですか…結局モノにしてたんですね…あのウミをねぇ…」
「誰もモノにしたなんて言ってないでしょ。ウミの家戦争で崩壊したから5代目の言いつけで俺ん家に居候してんの」
「なんですか…だったら最初から居候って言ってくださいよ……ってことは先輩、絶賛生殺し期間中ってことじゃないですか。御愁傷様です」
「リハビリもできない体にしてほしいなら本気出すけど」
「…勘弁してください」
「……ぅ…」

声?

小さく聞こえた呻き声に俺とヤマトは動きを止めた。ゆっくりとベッドに目線をやるヤマトとは裏腹に、俺は急いでベッドに駆け寄る。すう、と少しずつ目を開いていくウミの姿を視界に入れた俺は、ヤマトに向かって言い放った。

「ヤマト、ナースコール!誰か呼んで!」
「僕も怪我人だってこと分かってます?!」

2014.06.03

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