後悔なんて死ぬ程したのにね。

「帰って来て早々病院送りになるなんて…あのウミが信じられないわ…」

数日後、ウミが病院に運ばれたという情報を聞きつけたらしい紅が、見舞いの花を持って当の本人が眠る病室へ足を運んでいた。俺はさっさと任務を終わらせて日が暮れる前にここへ来て、ベッドの横でパイプ椅子を立ててぼうっと座っている。

「毒をもらって怪我もしてるって聞いたけど…あんたは何があったか知らないの?」
「分からない…ウミから直接話聞かないと…」
「耐性がないわけじゃないはずよね。これでも暗部のエリート、カカシと肩を並べるほど優秀な忍なのに…」
「…」
「そんなに凹まれると部屋の温度下がるんだけど。…ほんっとにカカシは昔からウミのこととなると弱いのよね。呆れた…」

花瓶に持ってきた花を生けた紅はウミの眠るベッドに腰掛けると心底疲れたような顔をして俺を見ていた。何その顔、育児疲れ?そう言ったらアンタの過保護さに疲れてんのと言われた。心配に決まってるでしょーが、大体紅だって心配だから見舞いに来たんでしょ。ちなみにアスマJrは奈良家のヨシノさんが預かっているらしい。

「私は無事な顔見れただけでもいいわ。まだ目は覚めないんでしょ?」
「ああ…いつ目が覚めるかは正直…」
「女々しいわね。いつもみたいに飄々としてなさいよ。こっちが調子狂っちゃうわ」
「…」
「1種の病気ね…」
「…また…」
「?」
「…また、長い間待たされるんじゃないかって怖いんだ。あんな所から帰ってくる可能性なんてないんじゃないかって思ってたから、もしかして今まで同居してたのも夢なんじゃないかとか…そしたらまたこうでしょ。俺、まだ何も伝えてないんだ、ウミに…」

そんな俺の言葉に盛大な溜息を吐いた紅は、まるで馬鹿にしたように笑った。

「‥そんなの知ってるわよ。女の子とっかえひっかえウミの代わりのようにしてきた癖に童貞男みたいなこと言わないでくれる?私それにも呆れてるのよ?」
「…分かってる」
「分かってるならまどろっこしくふわふわしてないで男らしくスパーンといきなさいよ」
「…」
「まあそれもウミの目が覚めてから、だけど。カカシも分かってるでしょう?ウミに好意抱いてる奴がいることくらい。これからもっと増えるわよ、あれだけ女に磨きかかってれば当たり前」
「紅は俺を痛めつけにきたの?」
「ウミのお見舞いにきてカカシの背中をちょっと押しにきたの」

さらっとそう告げる紅に俺の晒された右目が丸く大きくなる。なんだかんだ言って俺の想いを知っている数少ない友人でもあり、何かと応援はしてくれている(と思っている)。

「鈍いを超えて"恋ってなんですか、私鯉しか知りません"なんて言いかねない子だからね。言い寄って来た女の子達みたいにもっと積極的になんなさいよ」

軽くふふっと笑う紅を見て確かに、と俺は目を細めて溜息をついた。そうでもしないと、ウミが気付くはずないことくらい俺も分かってるんだけどね…好き過ぎて手も出せないとはこういうことかな。いや、訂正。ちょっとは出したことあったけど。

自分の気持ちを言えなかったことで長い間後悔するなんて、馬鹿だよ、本当。いつも読んでいる愛読書もポーチの中に入れたまま、眠り続けるウミを視界に入れて俺はきつく瞼を閉じた。

2014.05.08

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