最低結果論

朝を迎えたらしい小鳥の鳴き声に俺は顔を上げた。隣にいたパックンはいつの間にかそこからいなくなっており、5代目に呼び出されたシカマルが欠伸をしながら座っている。その数秒後、集中治療室のドアの上で点灯されていたランプが消えた。

「…終わったみたいっスね」

そうシカマルがぽつりと言ったと同時に手術室の扉が開かれ、ビニール手袋を外しながら難しい顔をした5代目の姿を視界に入れた。

「まだいたのか、カカシ」
「5代目、ウミは…」
「大丈夫だよ。…と、言いたい所だがな…とにかく2人共顔を貸せ」

そう言って廊下の突き当たり奥にある人気のない場所へと足を進める5代目を追うように、立ち上がってついていく。シカマルの言っていた"刻印"とは一体何なのか。5代目が足を止めた所で、俺とシカマルもぴたりと動きを止めた。

「…15カ所に及ぶ刺し傷、抗生剤治療、毒抜きは終わった。痺れや呼吸器の乱れ、吐き気もそのうちなくなるだろう…その毒は、ある木の葉の忍が開発したものだった。だから、並の医療忍者では治療が難しかったんだ。この世でアイツをよく知ってるのはもう…私くらいだからな…」
「…大蛇丸ですか」
「そうだ」
「5代目、そりゃどういう意味ですかね?今木の葉にある封印の部屋に大蛇丸が戦争で死んだ時のままの死体がある。禁術である穢土転生をもし誰かが使えたとしても、復活させることは不可能っスよ」
「別に大蛇丸がやったことだと言いたいわけじゃないさ。大蛇丸の"知識"を受け継いだ者がいる、ということ。部下を拡散させてた大蛇丸のことだ、その可能性はある。…問題は次だ。シカマルには少々伝えたと思うが、ウミの右肩上に百合の花のような"刻印"があった。私も見たこともない術式のような物で、そっちの方が厄介だった。ウミは大蛇丸からの重複した毒に一度やられていることがあるそうでな、毒に関しては耐性があるはずなんだ。それが今回はよく効いていた……そして、もう一つ。これは機密事項だが…シカマル、お前も知っていた方がいいからよく聞け。ウミは神獣の封印の器でな、あの体にとんでもないチャクラの塊を持つ獣を飼っている」
「神獣?って、神話に出てくるやつっスか?」
「ああ。この世界に五行を創生したと言われる生物だ。神話、伝説…存在しないと考えられているが、それを、ウミの生まれ故郷"光の国"のとある一族達が守ってきた。自分達の一族で力の強かった人間を器に選んでな」
「…」
「しかし、器であるからにはもちろん封印を解除する術もある。尾獣と違って、神獣は器を慕い手助けする為に力も貸したりすることも珍しいことではない。まあ、ほとんどのやつはよっぽど好戦的ではないらしいし、図体がデカすぎるだけでなんの問題もない。が…その神獣を封印する封印式の上から、封印を解けないようにする封印式があった」
「封印式の上から封印式?」
「…成る程…つまり、その神獣とやらの力を使わせないように封印式を重ねたってことっスね?そして、その上から重ねられた封印式は刻印で施された物。毒に対する耐性が低くなってしまったのも、神獣が器を助けていた部分がなくなってしまったから起きた」
「つまり……"刻印"は"呪印"と考えざるを得ないと…」
「…そうだ」

深い息を吐いて頭を抱えた5代目に、俺はギリッと奥歯を噛み締めた。ちらりと集中治療室へと目をやれば、何人かの医療忍者がドアから出て来た所が伺える。その場からピクリと体を動かさずにいると溜息をついた5代目がパン、と俺の肩に手を置いた。

「後はウミが目を覚ましてから話しを聞こうと思ってる。カカシ、お前は今日も任務だろ」
「…はい」
「また何か分かったら伝書鳩でも式でも飛ばして教えてやるから、お前はサッサと行け」
「……分かりました」

5代目に視線を向けたままでいた俺は、シカマルを残して急かされるように瞬身の術でその場を後にした。嫌な予感は最悪な結果だった、くそ‥!

上忍待機室へ到着すると木の葉病室が見える窓側へと背中を預けた。こんな時に任務なんてやってられるわけないでしょ。5代目に無意味な悪態を心の中でついて、俺は眉間に皺を寄せた。








「…俺だけここに残したのは、他にも理由があるんスよね」

カカシのいなくなった突き当たりの廊下で、綱手の目線を受け止めながらシカマルが口を開く。

封印の器。それを5代目は、守っていた一族"達"と言っていたっつーことは…

一抹の不安を覚えたシカマルに綱手も口を開く。そうじゃなければいいと頭の片隅で考えながら、シカマルはごくりと唾を飲み込んだ。

「お前、"アイツ"の左腕から甲までビッシリと施された刺青模様のことを知りたがっていたな」
「…そりゃあ…」
「本人の力量自体は確かに平凡以下。だが…"アイツ"の中には、神獣の中でもっとも強いチャクラを持つ気性の荒い獣が封印されてる」

その言葉に目を見開いたシカマルは、今までの話しの内容から綱手の言わんとすることを理解した。‥近いうちに"アイツ"も狙われることになる。そしてあの"呪印"を‥

2014.03.24

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