不気味に広がる百合

…変な呪印押し付けられたみたいだけど大丈夫?…じゃないか。珍しくも意識が混濁しているし。私に何かできることも…なさそうね。‥いえ、謝ることはないわ…けどこれからもっと警戒しておいた方がいい。見ての通りもう《獣解印の術》は使えないだろうから、私はなんの手助けもできなくなるし。‥分からないけれど、ウミの話しを聞く限りだと他の器も狙われている可能性がある。綱手には全てを話しておくのよ…さ、そろそろ目を覚ました方がいいわ。何かの気配が近付いてる……大丈夫。きっと"彼"は貴方を助けにきただけだろうから








「いたぞカカシ!!」
「…ッ、ウミ!!」

ゆっくりと目を開けると、真っ暗な闇が広がって、その闇の中から小さな犬が飛び出してくると同時に綺麗な銀髪が見えた。朱雀である迦楼羅《カルダ》が封印されている精神世界の中に入れば、自分のチャクラと引き換えに強固な結界を張って守ってくれる。私はカカシ先輩率いる小隊が無事に風の国につくまでなんとか持ちこたえていたが、ついた瞬間にほっと安心して気を失ったらしい。それと同時に迦楼羅が結界を張ってくれていたのだ。

迦楼羅の身体が、呪印の力で縛られていた。‥アイツの狙いは最初から迦楼羅だった。私はいつからか狙われていたのかということに小さく舌打ちをすると、目の前に降り立った犬 -- パックンにするりと手を伸ばした。

「パック……ひ、さ……り…」
「どうしたんじゃ、久しぶりに会えたと思ったらこの傷は…!」
「こ、れは…じぶ…で……」
「話は後にしよう…っお前、毒を!」

やはり現実に戻るとふらつきも痛みも倍増する。カカシ先輩はそのまま私を抱き上げると、パックンと共に慌ただしくその場から消えた。なんだろう、先輩の体温、すごく安心する…。混濁する意識の中でカカシ先輩のベストにしがみつく。ぼやける視界の先では、先輩の酷く焦っている顔が映っていた。








ピ ピ ピ

俺は、木の葉病院の集中治療室前で椅子に座り、床に目を落としていた。赤いランプで冷ややかに照らされ無機質な機械音が耳につく。暗部専用の病棟には集中治療室なんてなかった。大きな怪我をする前にはもう事切れてることが殆どで、簡単に言えば必要なかったのだ。

「カカシ」
「……セナ」

反対側の廊下から現れたセナに視線を送る。ガラガラといろんな薬品や治療道具を乗せた台を押しながら、気まずそうな顔で俺を見た後にゆっくりと口を開いた。

「カカシの言ってた好きな人って、あの兎の面の子でしょ?」
「…」
「前に見た時、あの子のポーチにカカシの持ってたわんちゃんのキーホルダー付けてたから」
「…、トモリは」
「大丈夫だよ、ちょっと腹の立つ作りの毒なだけだから。…でも」
「セナ!!早く治療室に戻れ!」
「っ…ごめん、じゃあ」

5代目に怒鳴られて、急いで集中治療室に入っていったセナの背中を見ながら俺は深く溜息を吐き出した。キイ、キイ、と揺れるドアの間から、綱手様や医療班達が忙しなく動く様子が伺える。

大丈夫な人間にあんなに群がるのはおかしいでしょーよ、セナ…。大体、両足や両腕の至る所にクナイで刺された痕があるなんてことがあの子に限ってあるわけないでしょ。おまけに毒まで盛られて、耐性がないわけないのに口を動かすのもままならないなんて…里に到着した時、俺のベストを掴んでいたウミの腕が冷やりとしていて酷く動揺した。急いで病院へと向かったものの、危険な状態だと判断され5代目が呼び出されていたのだ。

「らしくないっスね。動揺しすぎじゃないンですか?カカシ先生」

突如として廊下から姿を見せた彼に目を向ける。なんでこんな所にいるのかと少し驚いていると、ああ、と呑気な声が彼から漏れた。

「セナさんの言ってたことは本当ですよ。事実セナさんでも複雑な毒抜きを簡単にやってのけることくらい、カカシ先生だってよく知ってるじゃないっスか」
「…だったら何故5代目が呼び出されたんだ」
「それについてはこれから俺も詳しく聞かされることになるんですけど…カカシ先生には確認できない場所ってことだったんですかね?」
「…何の話しだ?」
「見たこともない絵のような"刻印"があったらしいですよ。まァ…それがただの"刻印"なのか"呪印"なのかは分かりませんけど」
「なっ…!」
「だから、毒の方は心配ないっス。むしろ心配なのは、その"刻印"ですかね…」

難しい顔をしながら、集中治療室を見つめるシカマルに眉を寄せた。だから次期火影側近であるシカマルがここに呼び出されたってわけか…。隣で大人しく寝ているパックンの頭を撫でる。俺は嫌な予感が増幅していくような感覚に、ぞわりと悪寒を覚えた。

2014.03.13

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