秘密を背負うのは慣れた

「随分早かったな」

火影室に顔を出して数分、あの抜忍をゲンマ先輩と拷問部に預けてきたのか少し遅れてきたシカマル君とセナさんを視界に入れた。ゲンマ先輩は恐らくだが拷問部にまだいるのだろう。

「中忍をやったのはアイツ等だと思います。今拷問部に引き渡してきたんでそのうち木の葉にきたことも吐くんじゃないかと」
「そうか、ご苦労だったな、もう下がって良いぞ。あー‥シカマルはちょっと残れ」
「ハァー……悪いっすけどウミさんとセナさんで報告書提出しといてください」
「分かりました」

そう言われて呆気なく終わった任務の報告書を纏める為、セナさんと火影室を出て上忍待機室の方へと向かう。今日は元々休みの日だったから5代目もこれ以上任務はやらせるつもりはなかったのだろう。しかしシカマル君の顔は完全に「なんで俺だけなんだよ」という文句がダダ漏れの顔だった。

「ねー、ウミちゃん」
「…なんですか」

人気のない道で、先程までのまったりとした感じで突然話しかけられ後ろを振り向くと、人差し指で顎を抑えながらにっこりとするセナさんが何か怪しげに笑いながら私を見ていた。

「ウミちゃんってこの間の兎の面の人でしょ?治療しに来た」
「………なんの話ですか」
「まったまたぁ。いいじゃない〜、私一々暗部の秘密バラしたりしないし。それに貴方のことはよく知ってるからあ」
「…」
「本当、誰からも愛されてて羨ましいなあ〜。ふふっ」
「……どういう意味でしょうか」
「そのまーんまの意味!あ、病院から呼び出しだぁ…残念、また今度話しましょお!それじゃ〜ねえ!」

上にばさばさと飛んでいる伝書鳩を視界に入れた後言葉を切ったセナさんは、煙と共に消えた。

あの人…私の何を知ってるっていうの。もちろん心当たりならなくはない。でもそれは、ご意見番と火影であったヒルゼン様とミナト先輩、そして恐らく5代目である綱手様と木遁使いのテンゾウ先輩、私を見てきたカカシ先輩しか知らないこと。"誰からも愛されてて"というのもイマイチどういうことなのか分からないが、何故だか変に引っかかる部分もある。そしてあの怪しげに笑った感じは本当に何か知ってる顔だ。

服の上から心臓の上に施された封印の術式を抑えた。まさかとは思うが、"隠し名"のことを知っているなら恐らく朱雀にも気付いている。セナさんが何を考えているかは分からないが、彼女には警戒した方がいい…私はセナさんが煙で消えた場所を眉間に皺を寄せて睨んだ。








「お帰り」

報告書を提出して、いつものようにポシェットから鍵を出していた時ふいに人のいる気配を感じて手を止める。そのままドアを開けてみると、フライパン片手に料理中のカカシ先輩が見えた。

「…今日は随分早いですね、カカシ先輩」
「午前は1つだけだったからね。夕方からまた出るんだけど……なんかあった?」
「5代目から言われて任務を1つこなしてきただけですが」
「それだけ?」
「それ以外に何かありそうですか」
「ありそうな顔してる」

フライパンを持ったまま私の目の前に来るとじっと私の目を覗き込む。っていうか先輩、フライパンの挽肉の油はねてるんですけど…

じっと見ている目から視線を逸らし、パチパチと上にはねる油をぼんやり見ていると、先程のセナさんとの会話をふと思い出した。もしかすると顔の広い先輩ならセナさんのこと何か知ってるかもしれない。そう考えて油から先輩へと視線を移した。

「カカシ先輩は深月セナさんという方をご存知ですか」
「…………え、セナ?」
「知ってるんですね」
「ああ、いや、まあね」
「どんな方ですか」

「どんなねぇ…医療忍者で中々凄腕の子なんだけど、ていうかセナのことならヤマトに聞いた方がいーんじゃない?あー…でもアイツ今入院中だからな…」
「誰ですかその人」
「あ、そっかお前知らないんだっけ。テンゾウだよ。今上忍の仕事も手伝ってるからヤマトって名乗ってんの」
「テンゾウ先輩ですか…」
「なんでセナ?」
「いえ。今日任務が一緒だったのでどのような人なのかと」
「ふーん、そういうことね」

任務先でのほわほわとした態度を思い出す。任務中だというのに、緊張感がまるでない身振りは敵がいても変わらなかった。そしてあの太い針が数ミリでもズレていれば、恐らくあの忍は死んでいる。それを正確に勢いよく上から刺して、一瞬で眠らせる程の強い薬。よくよく考えれば敵襲に慣れているような医療忍者はそういないだろうし、並の医療忍者があんなやり方で正確に薬を打つことはできないだろう。

「テンゾウ先輩はどうして入院中なんですか」
「入院中っていうかリハビリ中?戦争でアイツ大変だったからね。面会はできると思うけど、早く忍として戻れるように暇な時間全部使って頑張ってるみたいだから、皆で見舞いに行くのはもう少し先にしてるのよ」
「そうだったんですか…」
「ま、とりあえずお昼食べない?ウミも食べてないんでしょ?」
「あ…すみません」

手に持っていたフライパンをコンロに戻し、手際よく料理を再開するカカシ先輩の隣で食器やお箸を取り出す。セナさんのことを含め、テンゾウ先輩のお見舞いはカカシ先輩が行く時にでも連れて行ってもらおう。

2014.02.22

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