私は私の願いの為に。

「痛い〜?」
「すごい、もう痛くない!」
「まぁ深くなかったしねぇ、このくらいだったらセナの腕でちょいちょいっ!てね〜!」

腕捲りしていた袖を直すと、女の子の腕をもう一度しっかり調べて微笑んだ。転んだという傷も私の医療忍術により傷痕さえ残っておらず、火傷で晴れた赤みも無くなっていた。このくらいの傷を治すのくらい朝飯前だというように女の子の頭を撫でると、お母さんがほっとしたように笑みを見せた。

「ありがとうございました…!」
「気を付けてくださいねぇ?火傷後すぐ連れてきてくれたから軽い化膿だけですみましたけど、セナいなかったら傷痕残ってましたから〜。女の子はキレイが一番ですよお?」
「おねーちゃん、すごいね!」
「ふふ〜。セナはすごいよお?もうホント、5代目火影様くらいすごいよお〜?」
「ほかげさまよりすごいのー!?」

目をキラキラさせながら私を見る女の子の目はさすが子供というか、純粋だ。その横ではお母さんが苦笑いを零している。もちろん私が綱手様よりすごいなんてことはない。ちょっとした冗談だよおとへらりと笑みを返した。

「あ、代金の方を…」
「え?ああ〜…いいですよお元々今日は休みだったですし、休みの日ってセナほぼ病院いないからあ、ラッキーだったってことで」
「そ、それはできません!!」
「いいんですいいんです。むしろ病院開けてるのに勝手にいなくなる時とかありますから」
「あれ、キーちゃんいつの間にいたの〜?」
「…ちょうちょが喋ってる!」
「喋るチョウチョは嫌い?」
「わかんない!けどびっくりした!」
「この子はセナの相方っていうか、パートナー?ひらひらしてるけどね〜すごいチョウチョなんだよ〜?」
「おねーちゃんもおねーちゃんのまわりもすごいひとばっかりなんだね!あ、すごいちょうちょ?」
「こら、セナってばまーたからかって」
「別にからかってないもーん」

手の平サイズのキーちゃんが説教するも、別段慣れているっていうかあんまり迫力もない。適当に返事を返すと薬を1つ手に取った。キーちゃんて基本的にお母さんみたいなんだよねえ。まあ、お母さんのことは記憶にないしなんとも言えないけどさ。

「これは一応の薬だから、もし万が一痛くなったら飲んでくださいね〜。よっぽどないとは思いますけどお」
「あ、ありがとうございます…あの、薬代くらいは…」
「気にしないでくださいって〜、ああでも、タダで診察も薬もしてもらったっていうのは内緒にしてくださいねえ?ボランティアの病院になっちゃいますからあ」

唇の前に人差し指を立ててシー、と言うポーズをすると、女の子が「しーだよ!おかあさん!」と言いながら私の真似をした。そのまま私は二人を強引に病院から押し出すと、ぺこぺこと何度もお辞儀をしながら去って行く女の子とお母さんを見送り、病院の玄関口に鍵をかけて2階へと足を運んだ。1階は病院だが二階は自分のテリトリーである。扉を開けてすぐに台所、奥は1人にしては広い10畳程の部屋に本や雑誌が散乱している。要は私は片付けが下手、というかあまりしないということ。だって1回片付けるとあれ〜どこやったかな〜ということになるからだ。決して馬鹿なのではない。

「ねえ、私は飛んでるからいいけどあ…セナは足つけて歩くんだしちょっとくらい片付けたら?」
「いいんですう〜」

散らばる本を避けながら椅子に座ると、机の上にはキーちゃんが集めてくれた素材の数々が乗っている。猛毒蛇の抜け殻やいろんな粉末、生薬になる葉っぱetc…口寄せにしては昔から妙に薬に関して詳しいキーちゃんに、私は医療忍術の知識を全て教わったのだ。綱手様も一目置くチョウチョ。実質私よりキーちゃんの方が何倍もすごい。

「さあてやりますかあ!!」
「調合間違えたら猛毒だからね」
「何度も頭に叩き込んだから大丈夫〜」
「出来ても3日は冷凍保存」
「そこがネックだよねえ、出来れば早く持っていきたいのに〜」
「効果を上げるなら必要なことよ。早く元気になってほしいんでしょ?」
「だってまさかテンゾウがあんなに怪我して帰ってくるなんて思わなかったんだもん!」
「…酷い戦争だったみたいだしね」

病室でほとんど寝たきり状態の友人、テンゾウ。元々は暗部でカカシの後輩。そして程なくして"ヤマト"という名前で正規部隊にも顔を見せるようになった。私とテンゾウは、"テンゾウ"という名を名乗る"キノエ"の時から親交があった。

私は、自分が何者なのかが分からなくて、ようは記憶喪失状態である。いや、自分調べを続けて長くなるし、もう過去形になるんだけど…その自分探しを助けてくれていたのがテンゾウだった。テンゾウは怒ると怖いしなんか事務的な所あるし、最初は苦手だった。けど、仲間を思う姿や仲間に思われている姿を見るようになり、本当は凄く良い奴なんだなーって分かってきてからは心を許せる友人の1人になった。まあ、テンゾウは私の1個下だけどさ。

「セナ!ヤマトを!」

戦争から帰ってきたカカシの背に担がれた彼は酷く衰弱していて、綱手様から目が覚めても一生動けない体になるかもしれないと言われていたテンゾウ。そんなの、絶対に嫌だった。だから今度は私が助ける番だと、綱手様に内緒でテンゾウの体を1日も早く回復させるという、難解で複雑な薬を作っているところなのだ。

「借りはちゃんと返すよ、テンゾウ」

生薬用の葉っぱを何枚か手に取るとすり鉢へと入れ、力を込めながらゴリゴリと押し潰した。

2014.04.16

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