魔性の女と蝶々

「ごめんなさい、セナ、一応好きな人いるんだぁ〜」
「……え…、そ、そうなの!?」
「以外〜?」
「いや…それってもしかして…」
「あ、カカシじゃないよ〜カカシとはまぁ…ご想像にお任せしま〜す、うふふ。でもライドウのこと、友人としては好きだから、これからも仲良くしてね〜!あ、じゃあセナそろそろ帰るね、ばいば〜い」

呆然とする並足ライドウに手を振ると、そのまま火影邸の側から離れた私は急いで家に駆け出した。ライドウには悪いけどそれより大事なことがあった。傷の治りは抜群に早いが、調合が極めて難しいとされる薬を開発最中なのである。

木の葉の里の放浪医療忍者というピッタリな異名のついた深月セナこと私は、シズネや春野サクラちゃんと同じく綱手様の弟子だ。医療を除いての私はサボり癖もあり放浪癖もありであまり綱手様から信用されていないが…(笑)。まあ笑っている場合ではないことではあるけど、そんなこんなで自由気ままに1人暮らしをしている。ちなみに1人暮らしの家では個人病院を経営中。両親はいない、姉妹もいない、元々木の葉の人間ではないという3拍子が揃っているが、木の葉の里は余所者にも暖かい里だ。

「セナ、お帰りー」

ひらひらと目の前から近寄ってくるそれに目を顰めると、見えたピンク色に手を振った。私の口寄せであるチョウチョ。他のチョウチョよりもとっても綺麗でとっても可愛いその子は、大事な大事な私のパートナーだ。

「キーちゃん!」
「素材そろってるわよー、皆手伝ってくれたから」
「さっすが〜!ありがと、助かったよぉ」

肩の上にひらっと止まったキーちゃん(キン)ににこーっと笑いかけると、"素材"が揃った我が家へ急ぐ。私が何故こんなに急いでいるかと言うと、まあ、とある人の怪我を1日でも早く治したいが為で、キーちゃんは毎日その素材を集めるお手伝いをしてくれているのだ。ついでに皆というのはキーちゃんに恋抱くオスのチョウチョ達。キーちゃんはチョウチョ界隈でいう魔性のメスである。素敵すぎる。

「さっきライドウに告白されちゃってね〜もお吃驚しちゃったぁ」
「何言ってるのよ、分かってた癖に」
「確信じゃなかったし〜、それにカカシが好きだと思われてたみたい」
「実際はそうだったでしょ」
「むか〜しの話し!むか〜しの初恋!」
「…」
「何思い出してるの、キーちゃん」
「んー?いやぁ、昔はカカシにベタ惚れしてたのになぁと思って」
「ね〜、今では信じらんないよお、ま、カカシのことは今でも仲間として好きだけどね〜」

たわいのない話しをしながら家に辿り着くと、そこには若い女の人と女の子の姿。

今日は私の病院休みなんだけどなあ。恐る恐る2人に近付いていくと、酷いケロイドのような腕が視界に入る。キーちゃんが「ひゃっ!」と言いながら羽で目を覆った。目が小さすぎて分かんないけど。

「どうかしたんですかあ?一応今日病院お休みなんですけど〜」
「あっ、この病院の方ですか!?調理中子供にやかんの熱湯がかかってしまって…!お休みなのは分かってますが処置だけでも…!」

真っ赤になった目からぼろぼろと涙を零す女の子と、焦る女の人を視界に映して腕の様子を見る。すぐに水で冷やされてはいるがなんだか様子がおかしい。お湯のせいではないだろう傷跡から、血が吹き出している。元々怪我でもしていた所にお湯を被ったのだろうかと首を傾げた。

「え〜?でもぉ、なんでこんなことに…」
「お、お母さんのお手伝い…しようとしただけなの…」
「…お手伝い?偉いね〜!でも自分ができることからしようねえ、貴女が怪我したり病気してりしたらお母さん心配しちゃうよお?」
「ひっく………痛い…」
「この子、つい先日アカデミーで転んで‥怪我もしていたその上から…」
「あ、成る程ね〜。いいですよお、とりあえず病院開けますから入ってください〜」

薬の調合はとりあえずこの子の怪我の様子見てからかぁ。気は進まなかったが、こんなモノ見せられて帰ってくださいなんて言える訳がない。むしろそんな看護師がいていいわけないし。ガチャリと鍵を開けると、電気をつけて2人を部屋へ促した。

2014.04.13

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