"忘れたい"

「綱手様、どうかされましたか?」
「さっきロイから受け取った手紙のことが引っかかってるんだよ。マトイの奴何を考えてあんなこと…」

机に肩肘をつきながら判子を空中に投げて書類に印を押すことをしなくなった綱手に首を傾げたシズネは、綱手の言葉を聞いてああ…と嘆きながら腕の中のトントンを撫でた。マトイには確かに砂隠れへの任務で3日間程猶予を与えているが、それを2週間に伸ばせなんて聞ける筈もない。ただでさえマトイは木の葉での重要な役割を担っているわけで、あいつがするはずの仕事だってたくさん残っているのだ。

「我愛羅君とすごく仲良くなって休暇を伸ばしてほしい…とかまさかないですよね?」
「ないな。まあそれはそれで別にいいが仕事は違うだろ」
「じゃあどうして急に…」
「ツナデッ!!」
「ロイ、来たか」

キキキッ!という音がなりそうな程走っていた足にブレーキをかけた目の前の鼠を視界の端に捉えて、綱手は机から身を乗り出した。相変わらず足が速いな、助かるよ。そう言いながらしゅばっ!とロイの手から出された手紙を受け取った。

そういえば説明してなかったですねすいません。実は砂隠れに現れた盗賊っていうのが"かわせみ一族"っていう光の国での生存者ということが分かって…ああ、なんか放浪してた一族だから生存してたみたいなんですけどね。それで、簡単に言うとそのボスが修羅の国のすぐ近くにいるらしーんですわ。いやー捕まえないといけないって思いません?むしろ5代目火影である綱手サンなら捕まえろって言うでしょ?だからちょっとばかし時間がほしいんですよ。そっちの仕事は帰ったらこなすんで。したくないけど。

「…最後の文は余計だな」

額に薄っすら青筋をたてながらも納得した顔を浮かべた綱手に、「なんだろう?」と、トントンと顔を見合わせたシズネ。徐に筆を取り出し何かを書き始める師の姿を見て恐る恐る声をかけた。

「綱手様、あの」
「シズネ、何か淹れてくれ」
「あ…はい。分かりました」
「ロイチーズッ!!」
「え?な、なんて言いました?」
「チーズッ!!!!!」
「あ、チーズですね。分かりました」

いつの間にか机の上に登っていたロイはぴょんぴょん飛び跳ねてシズネにわーわーと喚く。それを綱手に「少し静かにしろ」と制されても、怖いもの知らずであるからかあまり効果はなかった。シズネは言いかけた言葉を飲み込むと、お茶とチーズを持ってくる為にトントンを置いてその場から離れていった。








ねえ。今更だけどやっぱちょっとおかしいよね。隣のベッドで我愛羅様が私をすごい見下ろしてるんだよ、ガン見だよなんなの。ロイちゃんが戻ってくるまで、ベッドの横に敷かれた布団の上で我愛羅様に背を向けて(ここ大事)本を読んでいるのだが、凄く視線が背中に刺さるのだ。ぐっさぐさだよ超痛い。死ぬよこれ。

「…先に寝てていいって言いませんでしたかあたし…」
「いや…眠れなくてな」
「布団に入って目でも瞑れば眠った気にくらいはなりますよー」
「それにマトイが気になる」
「分かりましたー出て行きますー」
「そうじゃない。こっちを向いてくれ」

今度はなんだ。そう思いながらゆっくり振り向いて、ベッドから足を投げ出して座る我愛羅様を視界に入れた。後ろの大きな窓からほんのり月の光が当たって我愛羅様の赤い髪が一層際立って見える。綺麗…だなんて一瞬思ってしまった自分を殴りたい。

「…眼鏡、しないのか」
「さすがに寝る時はしないですよ…」
「そっちの方がいい。眼鏡も…嫌いじゃないが」
「我愛羅様の女の好みなんか知るかって話しですよ。さっさと寝てください」
「マトイ」
「今度はなんですか…」
「…ありがとう」
「?」
「…俺がまだ人柱力の頃、自分以外は敵だと…愛なんて誰もくれやしないと、そう思っていた。だがずっとお前の言葉が引っかかっていたのは確かだった…"あたしが君のこと守ってあげる"…俺もマトイもあの時は幼かったが今の俺ならよく分かる…あの時のお前の目は確かに本心の言葉だった。ナルトが…うずまきナルトが俺を2度救ってくれた時、お前達2人の瞳は同じだった」
「…」
「だから…ありがとう、マトイ。ずっと…ちゃんと礼を言いたかった」
「…そんなこと言われてもあたし現場すら覚えてないんじゃあしょーがな…っ…?!」

ふん、そう誤魔化してついっとそっぽを向いた瞬間だった。頭の中が割れる程に痛む感覚に思わず声にならない悲鳴をあげる。

なに、これ…っ!!!

「はなせ、…!や、め…!」
「おいおい、まだこいつ10歳にも満たしてないんじゃねーの?」
「犯罪だなァ…それがいいんだよバカだなお前」
「や…、や、やだ、!!、やだ…!!!」
「マトイ!!!!!」

ブツンと我愛羅様の声で映像が途切れる瞬間

" "

と嘆いた小さな私の声が聞こえた気がした。

2014.11.12

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