お兄さんは家政婦なんですか?

「お、戻ってきたじゃん」
「誰ですかこの人…」
「カンクロウだ」
「かんく……あー、お兄さんかー」

不服な顔を全面に押し出して風影室に入ると、黒い服の男が机の上の書類を纏めたりなんたらかんたらしている。ここ一応お偉い様の部屋でしょ、そんなに漁っていいのかと思っていたら我愛羅様が聞き覚えのある名前を口にしたではないか。あー…よく見れば、あの口癖はそうかも…顔にしていた落書きがないから分かんなかった。

「もう分かりました逃げませんすいません」という何回目かのあたし言葉でやっと体から砂を解放してもらったが、私の体にはまだ砂がまとわりついているみたいな感覚でなんだかじゃりじゃりいってる気がする。うっへ気持ち悪い。今はお兄さんのカンクローさんよりお風呂入りたいお風呂。

「もう片付け終わるから……って、そういえばテマリがお前と話したいって言ってたぞ」

服をばさばさしていると、次いで聞こえたカンクロウさんの声に顔を上げた。え、あたし?あたしですか?はらはらと(砂じゃなく)服についていた埃が落ちて行くのを見て「お前!掃除終わってんだから散らかすんじゃねーよ!馬鹿じゃん!?」と、ひいっ!てなりながら近くにあった備えつけのロッカーに走っていく。おお、お兄さんっていうよりもう家政婦さんだな…

「折角だ、テマリと風呂でも入ってきたらどうだ」
「なんでですかー?」
「テマリは部屋か?」
「聞いてくださいよー…」

不自然にスルーしてんじゃないですよ。上着を脱ぎながらカンクローさんに寄って行く我愛羅様を見て、溜息を吐いた。テマリさんとお風呂って…兄弟まであたしを羽交い締めにして行くつもりか。そうはいかないよーそれに大体誰か1人くらい反対する人いてもよくないかな…

箒を手にしたカンクローさんは、我愛羅様に受け答えをしながらこっちへと近付いて落ちた埃をちりとりの中へ掃いていく。なんていうか、そういう役目なのかただ小綺麗なのかは分からないが随分マメな人だな…印象と違う。

「とりあえずお風呂入ってきますよー。テマリさんに会ったらそう伝えといてくださーい、で、銭湯ってどこですかー?」
「丁度裏に1つあるじゃん」
「近い…って何ついてこうとしてるんですかね我愛羅様…」
「送っていく」
「うんまじ絶対くんなって言うの分かってますよね」

何を思ったかついてくる我愛羅様に冷えた目線を送ると、少し寂しそうに眉を寄せながら舌打ちされた。…ちょっと可愛いとか思ってしまった自分の目よ、早く覚めてほしい。








着替えを袋に入れて風影邸の裏に回ると、その近くに「銭湯」の看板を見つけて店の中に足を踏み入れた。高級感…はないけど、この昔臭い感じが中々あたし好みである。奥に見える透明の冷却機の中にはビンの牛乳とコーヒー牛乳、フルーツ牛乳が並べられている。こんなん飲むに決まってるだろー。

ほくほくとしながら女湯の暖簾をくぐると夜にも関わらずガランとしていて、人の気配はほとんどない。人混み嫌いだから助かったーなんて嘆きながらふと隣の籠を見ると、無造作に服が投げ入れられている。下着見えてるよ。黒か…なんて男みたいなことを考えながら服を脱ぐと、タオルを巻き付けることなく湯気の中へ向かった。

「…あ」
「あ?」

湯煎に浸かる金髪の後ろ姿を視界に入れると、あたしの気配に気付いたのか金髪さんが振り向いた。おお、待て待てどんなタイミングだ。テマリさんかい…!!!嫌な予感しかしないよ!!!

「お前か」
「い、いえいえあたしのことなんてお気になさらずー」
「話したかったんだ、丁度よかった」
「ええ……お手柔らかに…」
「お前我愛羅をどんな手使って取り込んだんだ?」
「いきなり人聞き悪過ぎですしね…」

ジャー!と勢いよくシャワーを出すと、そんなもん知るかあたしが聞きたいんだよ、とばかりに眉尻を下げた。テマリさんはお湯に浸かったまま肘を付き、品定めをするようにじーっとあたしを眺めているではないか。目が怖いのは元からですよね、なんて言える訳がない。我愛羅様うんぬん以前に他界するわ。

2014.11.01

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