黒百合のサレナ

「うわああー威圧感ある扉がすごく嫌だあああぁ…」

氷ノ手さんを連れて我愛羅様の言っていた空き穴の扉までやってくると、入ったら出て来れなくなるんじゃないかという黒の扉が見えて物凄く引いてしまった。や、牢獄だから仕方はないけどもさ…ギギギ、と扉を開けるとさらにひんやりする空気に身震いが起こる。

「えーっと…まあとりあえず入ってもらってー」
「あ…はい…」

恐る恐る足を踏み入れる氷ノ手さんの気持ちが痛い程よく分かる気がする。その理由はさっき氷ノ手さんやヨタさんがいた牢とは違う、かなり厳重な物だからだろう。木の葉にはこんな牢ないもんな……ぼんやりとそんなことを考えながら、地面へと腰を降ろし胡座をかいた。

「で、話しをしてくれるんですよねー?」
「‥とりあえず私達の目的と理由は分かったわよね?」

「翡翠…もとい翠蓮さんが一族の1人でヨタさんのお兄さんの1人娘だからお金と引き換えて連れ戻したいってことですよねー。そこはもういいですよ、それよりも…一体誰と取り引きをするつもりだったんですかー?」
「……修羅の国の王、サレナよ」
「はいちょっと待った!!!」

あのね、さっきからこの一族の言ってることおかしくないかな。死んでるんだってば。ひす、翠蓮さ…いやもうどっちでもいい!!とにかく翡翠さんと同じくサレナも死んでるんだよ!!いや実際にあたしはその瞬間を見たわけじゃないけどさ、修羅の国はもう壊滅してるんだって!!だから修羅の門前"跡"って言うんでしょー!?

「サレナは死んでます、木の葉の忍の1人が修羅と言う名の鬼国を血祭りに上げたんですよ。自分の仲間と一緒に」
「…バカね、サレナは生きてるわよ。黒い百合が咲き続ける限り、ね」
「黒い百合?」
「"黒百合のサレナ"…光の国に住んでいた者なら知っている彼の異名よ。呪印を埋め込むことで他人の力を吸い付くし、自分の物にする。現にサレナは何度か殺されてる。けど、呪印を埋め込まれた者を蝕み"サレナ"は復活するのよ…もちろん、時間はかかるけどね」
「あ…ありえないそんな呪印…!!何度も復活するってことじゃないですか!!」
「それがありえるのよ。…これ、見て」
「っ…!?!」

くるりと背中を向けた氷ノ手さんが服を脱いで見せたのは、大きく描かれた"黒い百合"のような模様だった。見た瞬間に吐き気に襲われて口を覆う。すごく嫌な雰囲気の漂う模様だ…小さく息を飲み込んでいると、氷ノ手さんは脱いだ服をまた着直しこちらへ向き直った。

「私もサレナから呪印を受けた1人。呪印を受けて間もない時、この百合はこんなに大きい模様じゃなかった…大きくなっているのは、"次"が近い証拠なの」
「……」
「貴方の母親も…サレナの犠牲者なのよ」
「!?」
「…今度は私が質問したいんだけど、いい?」
「ちょ、タンマ…混乱中…」

んなアホな…犠牲者、だなんて…そんなこと初めて聞いたんだけど…?いよいよ頭の整理がつかなくなって、とりあえず壁に頭を打ち付ける。ああー落ち着け。とりあえず自分の母の死因が分かってよかったじゃないか、いや、よかった…のか?氷ノ手さんが嘘をついてるわけではなさそうだ。っていうかそんなの嘘つく理由ないしね…なんだよそれサレナの情報あたしなんにも知らなかったってこと?なんで?精密聴の術は、昔何度もこっそり修羅の国へ出向いた時にー…

……精密聴が雑音に邪魔されてるー…?

おっかしーな…?まだよみとれないや…たしかにざーざーってきこえるんだけどな…

「……まさか」

物凄く最悪な予感がする。昔修羅の国で耳にした雑音と、木の葉での雑音をふっと思い出して寒気がした。ありえないありえない、なんて首を振っても否定しきれていない自分がいる。もしかしてが、確信へと変わろうとしている。‥木の葉にサレナか、その仲間かが入り込んでるんじゃ…

「…マトイさん?大丈夫ですか?」
「え?あ、あー!任せて!?」

慌てたように片手でぶんぶんと手を振る。なんてこった、なんでもっと早く気付かなかったんだろう、いやそうじゃないかもしれないけどそうかもしれない。っていうか早く木の葉に帰りたい!

「氷ノ手さんありがとうございました、もういいです戻りましょう!」
「え?ちょっと待って、私も聞きたいことがあるの!それにまだ話すべきこともあって…!」
「これ以上に大事なことが他にあるっていうんですかー?!どんだけ謎に包まれてるのあたしの故郷!」
「知っておいた方がいいの!!だって、"修羅の国"と"光の国"は…元々"私達も"…!!」
「……!?」

次いで出た氷ノ手さんの言葉にあたしは固まった。意味が理解できない、理解不能、どうやったら理解できる?理解できるわけがない。無理だって。

「…なに、それ…」

2014.10.15

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