「はー…そういうことだったんですねー。なんで翡翠って言われてたのか納得ー」

顎に手を当ててふんふん頷きポケットから紙と短いペンを取り出すと、成る程とばかりにペンを走らせた。なぞなぞみたいなあだ名つけたもんだよ、というか誰が付けたんだろうか…上手いことつけたな。カチリと芯の先を直しているとクソ野郎が、と舌打ちするヨタさんへ視線を向けた。

「…お前等一族のことぺらぺら喋りやがって、こいつにどうしてほしいんだよ」
「どうしてほしいわけじゃなくて……彼女には知ってもらうべきだと思ったのよ。私達一族のことと…」
「それよりもまず俺達にはやることがあるって言ってんだろ!!」
「あのねー…もーだからうるさ」
「力になれることなら力になるが」
「「は?」」

突然私の後ろから被せるように聞こえた声へばばっと振り向くと、驚くテマリさんの側で我愛羅様が淡々とそう口を開いてるではないか。力になるって…ちょっと待って貴方風影様ですよね?風の国、砂隠れの里の風影様ですよね?簡単に言ってるけど、そう簡単に力になれることはないような気がするんですけど…

「お前が修羅の国まで行ってくれるってのか?あァ?」
「金は持っていかないがな」
「ふっざけんななめてんのかお前!!!金がねェと意味ねェんだよ!!」
「ふざけてるのはお前だ!!我愛羅になんて口を聞いてるんだよ!!我愛羅は風影だぞ!!」

あたしを差し置いて謎の言い争いが起こり初めたんだけどなんだこれは。ヨタさんの口の悪さにテマリさんがブチ切れているではないか…自分が真面目とは決して言わないし真面目だともさらさら思ってないけど、真面目な話しをしたい時もあるよあたしだって…呆れたように2人を傍観していると、氷ノ手さんがあたしを見ていることに気付き言い争いそっちの気でそろそろと近付いた。

「…ヨタさんっていつもあんな感じなんですかー?貴方の苦労が目に見えて分かるようで同情しちゃいそうなんですけどー…」
「ヨタは元々キレやすいけど…、ヨタは翠蓮が大好きで…だからきっとあんなに…」
「……そーですか」

大好き、ねえ……ピンとこないその言葉に小さく溜息を零すと、視線を私の後ろへ寄せる氷ノ手さんから目線を外した。自分の兄貴の1人娘なだけなのに、なんでそんなに必死なんだか…

「風影、お願いがあります」

ふと放たれた声に視線を戻すと、氷ノ手さんは今だ後ろへ目を向けたまま真面目な顔を浮かべている。あれ…今風影にって言った?なんで?眉を寄せて首を傾げながら後ろを振り向いた。

「なんだ?」
「少しの間だけ彼女と話しをさせてください。絶対逃げたりしません、お願いします」
「氷ノ手1人で…?」
「だったら俺も、」
「レン達は残ってて。私だけでいいから」
「…だ、そーですけどー?我愛羅様ー」
「マトイ、どう思う」
「なんであたしですかー?」
「マトイが信じられるなら、この女だけ一時的に牢から出す」
「あたしが逃がしちゃうかもしれませんよー、氷ノ手さんのことー」
「俺はマトイを信じる。…どうする?」
「我愛羅様ってお人好しなんですねー…分かりましたよ、あたしも静かに話し聞きたいですしー」
「奥に扉のついた空き穴がある。そこを使うといい」

我愛羅様の言葉に緩く頷き立ち上がったあたしは、瞬身の術で氷ノ手さん達のいる牢へと入り込むと、氷ノ手さんの腕を掴んで牢の外へ出た。ヨタさんとテマリさんはまだ睨み合っていて、それを見たあたしと氷ノ手さんは同時に苦笑いを零しながらその場を離れた。

2014.10.07

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