理由は誰にでもある

「見合いの話しを全て断れ?」
「ああ」

少し前の話し、砂隠れの里にある風影邸で交わされた会話である。以前から風影である我愛羅には数え切れない程の見合い写真が送られてきていた。それを見る度にテマリはこの女は危ないだのその女は危ないだの、カンクロウに至っては「俺は嫁よりまず彼女が欲しいじゃん…」と呟く始末。何故か求婚を迫られている我愛羅が、そんな二人を静かに傍観していた。

「ちょっと待てよ我愛羅、お前相手側の写真1枚も見てねーじゃん?」
「…興味が無い」
「まあ私もオススメしないが…いいのか?大名の娘もいる、一応目を通した方がいいんじゃないのか?」
「興味が無いと言っている」
「マジか…この子とか可愛いのにもったいないじゃん…」
「我愛羅にはそんなチンケな小娘達よりもっと良い女がいるだろ。だがどうするんだ?全部断った所で求婚の話しが無くなるわけじゃないぞ」
「分かっている」

その言葉と同時に、机の引き出しの奥から古い写真を取り出した我愛羅は、何処か安心したような表情を浮かべるテマリにそれを差し出した。

「誰だ?」

いつの写真なのか、そこには黒縁メガネをかけた1人の少女の姿が写っていた。ゆるいウェーブに特徴的な緑色のメッシュ、とても女性的には見えない虚ろげな目をしている少女の姿に首を傾げたテマリは、視線を我愛羅へと戻した。

「求婚の話しが来た時から考えていた。俺は…自分が全てを安心して身を預けられる奴に側にいてほしいと」
「そんなの当たり前だろ、じゃなかったらどこの馬の骨とも分からん奴と結婚なんて許すか。で、こいつは誰だ?」
「その写真に映る少女が俺の想い人だ」
「「は!!?!」」

突然の大告白大会(我愛羅のみ)にテマリとカンクロウの声が大きくシンクロする。至って真面目な顔で我愛羅がそう告げたものだから、カンクロウはお気に入りの女の子の見合い写真を力任せに握り潰してしまい、テマリはひらりと我愛羅から受け取った写真を床へ落としていた。

「いやいや!ちょっと待てそんな話し私は初耳だぞ!?」
「今初めて言ったからな」
「我愛羅…お前の女の趣味って案外普通なんだな…そりゃこの写真に見向きもしねーわけだ…ってうおお!!俺写真握り潰してるじゃん!!」
「確かに案外というか普通だな…で、こいつは近くに住んでるのか?」
「いや、確か木の葉の里の忍だと言っていた」
「「木の葉!!?!」」
「今日は随分仲が良いんだな。カンクロウ、テマリ」
「いやそりゃ驚くじゃん!?一体いつどこで知り合ったんだよ我愛羅!」
「それでだ」
「普通に無視!?」

ガーン!と頭上にテロップが付きそうな勢いで凹むカンクロウを無視した我愛羅は、深く溜息を吐くテマリに声をかけた。

「少しこの少女の素性を調べてほしい」
「もももしかして我愛羅それは一目惚れとかいうやつじゃないだろうな…?」
「一目惚れ、か…少し違うな」
「…素性を調べろってことは木の葉の里の忍ってことくらいしか知らないんだろ?」
「名前も分かる。要石マトイだと言っていた」
「おかしいじゃん…いつの間にそんな出会いがあった‥おかしいじゃん…」
「んで、いつどこでこいつと知り合ったんだ?」
「それさっき俺がした質問じゃん」
「…まだ俺の中に一尾がいた頃だ」
「まただいぶ昔だな…」
「なんでテマリには答えるんだ…」

潔く落ち込むカンクロウと難しい顔を浮かべるテマリを尻目に、我愛羅は座っていた椅子から立ち上がった。

「やる気のなさそうな女ではあるが……そうだな、少しナルトに似ているかもしれない」
「?」
「…俺は"要石マトイ"をもっと知りたい」

牢獄へと向かう足、目の前でどすどす歩くマトイの背中を見ていると、その隣を歩くテマリの目線が俺へと向けられた。何があったんだ、とばかりに眉間に皺を寄せて疑問符を浮かべるテマリに、小さく苦笑いを零れる。

「まあ…その、なんだ、リー達に聞いているより感情の起伏は中々激しい感じだなお前…」
「そう見えますかー?でしたらきっと何かがあたしをそうさせてるんだと思いますよーねえ我愛羅様」
「そうかもな」

笑いながらこめかみに少し青筋が入っているマトイへ静かに返事をすると、テマリが少し大げさに溜息を吐いていた。先程の事件でのことを上手く言いくるめられたような気がして腹が立っているんだろうが、俺はお前の為にそうしたまでだ、という視線を送れば、マトイはふんっと顔を前へ戻していた。

「…牢獄では極力静かに頼むぞ」
「分かってますってー」

目の前に現れた重々しい扉を開いたテマリにそう告げられ、楽観的な声のトーンで答え足を踏み出したマトイに続く。暗闇にほんのり光る炎だけが牢獄の唯一の灯り。その奥へと向かえば、少しずつ大きくなっていく声に眉を寄せた。

「くっそー!!ここから出せ!!」
「……あ、貴女…!」
「手荒ですみませんねーほんと。あたしのせいじゃないってことを念頭に置いといてくれるとありがたいんですけどー」
「テメェのせいじゃなかったら一体誰のせいなんだよ!」
「ここは声がよく響く、少しは自重しろ」

噛み付かんばかりの勢いでガシャン!と鉄の牢にぶつかっていく男に視線を送る。その後ろでは、残りの一族達が睨むように俺達を見ていた。

2014.09.27

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