幼い頃のお話

「なにこれびっくり超うまい」

無理矢理座らされた椅子の目の前にある食事は、つい先程砂の忍がわざわざ届けてくれたものだ。図らずもあたしのお腹が鳴ったとほぼ同時に運ばれてきた食事は見事にあたしの好物ばかりで、もうそりゃ負けました。負けましたよ食に。まあ2人っきりでもいいかと思わされましたよ。串の並ぶ皿と軽めの白米、ポテトサラダ、大根の味噌汁。極めつけはデザートのきな粉餅…しかも前我愛羅様が無理矢理食べさせたあの有名どころのやつ。‥餌付けさせようとしてるなこれは。

ていうかそもそもこの好物オンパレードについてどこで調べたんだと机に肘をついて、箸をかちかちと動かしながらじろりと我愛羅様を下から見上げた。まあ大体わかる。あの5代目巨乳火影様だろう。あの人ほんっとに余計なことするのやめてくれないかな。

「喜んでもらえてよかった」

あたしの目をじっと見ながら表情を変えずに言い放つ我愛羅様に、思わず片方の手にのせていた顎がずり落ちそうになった。

「…わざわざ食事まで用意するなんてちょっと周到すぎですよー」
「こうやってきちんと話しをしたかったんだ。その感じだと…やはり快諾はしてくれてないようだが」
「何を快諾ー?」
「俺は結婚を前提にお付き合いを申し込んだはずだが」
「あーはは。ないない、まあこのご飯の美味しさには惹かれますけどー」
「…まあそれに、聞かないのか?どうも俺と出会った頃のことを覚えてないみたいだが」
「え?まあなんでかなーとは思いますけどー別に興味ないですし聞くのも面倒ですしー」
「…」
「あー、口元にタレついてますよー」

びっと我愛羅様の口元に指をさして軽くケタケタと笑うと、目元をほんの少しだけ赤らめて親指でタレを拭っていた。前もきな粉つけてたことあったけど…子供か。なんてツッコミを心の中でしつつ大根の味噌汁を啜る。

「俺がまだ一尾の人柱力の頃、かなり変わった女と里の中で出会った」
「むぐ?」
「仲間から命を狙われている俺を見てどこの里の者かも分からないその女が助けてくれた。しかし俺は、その女も違う組織か何かから繰り出された、俺を殺しに来た敵だと思って攻撃したんだ…なのに、女は持っていたクナイをおろしてまともに俺の攻撃を受けた」
「ふーん」
「…驚いた。まさか俺の前で武器を捨てるやつがいるなんて思ってなかったから…その時素性は分からなかったがその時にそいつはこう言った」
「?」

「ど、どうしてぶきをすてるの…?!きみは、ぼくをねらってたんじゃないの…!?」
「…ばか、いわないでよ…ほかのさとともんだいおこしたら、あたしのさととなにかこじれるかもしれないじゃん」
「でも…ぼくは…」
「きみには、そんなにすごいちからがあるんだね。うらやましい」
「…ぼくは、こんなちから、いらないよ…」
「なんで」
「……」
「あたしは、そのちからがうらやましい…だって、たすけてってきこえたって、いまのあたしじゃなにもできない…」
「そんなこと…!いまぼくをたすけてくれたよ!」
「あたしがいちばんまもりたいものには、とどかない…」
「…いちばん、まもりたいもの…?」
「このはのさと。このはをまもれるなら、いつでもしんだっていい。いまあなたにころされて、さとのためになるなら、それでもいい」
「どうして…そうおもえるの…?」
「…あたしのいまいきてるばしょ、だから…」
「っ、あ、!」
「あたしのことは、ほっといてくれて、いーよ…きみがなんか、まきこまれるかもしれないから、ね」
「そ、そんなの!できない…!だってぼくがけがさせて…!」
「…マトイ、あたしのなまえ。ここが"いや"になったら、あたしのすんでるさとにきなよ…そしたら、あたしがきみのこと、まもってあげる」

「…そう"お前が"言ったんだ」

まるで昨日のことのように、しっかりと全て告げる我愛羅様は柔らかく笑っていた。

2014.06.18

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