攻防戦勃発

ずりずりと(無理矢理)部屋に連れられた先、そこにあったのは大きなベッドと洋服タンスや最低限の収納棚。奥の方には小さな台所も見えて、ここは風影邸じゃなかったっけと思わず顔を顰めていた所だ。あたしがここに数日間(ほんとに嫌々ながらも)滞在する用なのか、見たくもない光景が広がっている気がする。

「マトイの荷物はそっちへ置くといい」
「えーっとですねー…なんであたりまえのように布団が置いてあるんでしょーか…」
「ベッドは1つしかない。布団が嫌なら一緒に」
「そーですよねーそう思ってました!!あたしも別々に寝るしかないと思ってたんですー!」

至って真面目な我愛羅様の言葉に被せるようにぶんぶんと手を振りながら叫ぶように口を開く。この野郎、これはもしかしなくても元より泊めるつもりで準備してやがったな…なんて恨めしく考えていてもしょうがない。そう、別に荷物はここに置いて寝る時はテンテンさんの所にでも逃げればいいわけだから。どさっとしょっていたリュックサックを布団の上に置き、さあもうこんな所に用はないと部屋を出よう……と……

「ちょっとーなんなんですかー?!」
「あの2人ならまだ来ないと思うぞ。宿にテマリがいる。もうすぐ昼だからな、昼食へ連れて行かせた」
「昼食?」
「いい時間だろう」
「待って!待ってすとーっぷ!」
「?」

あたしの腕に巻き付く砂と、我愛羅様の手が目に映る。せめてどっちかにしてくれないでしょーか!…と、それよりもだ。リーさんとテンテンさんが昼食に連れて行かれたらしいということに疑問が浮かばないだろうか?つまりはあたしだよあたし!!あたしの空腹については気にも止まらないの!?

「あたしもお腹空いてます!空いてるんですー!ですからあたしもテンテンさん達と一緒に」
「マトイとはここで一緒に食事をするつもりだ。安心してくれ」
「はぁ!?!」
「1時間後に居間へ集合するようにテマリには言ってある。こういう少しの間でも使わないと、ただでさえ他里の忍であるお前なんだ。中々お互い話す時間もないだろう」
「あーのねえ……あたしこれでも一応任務で砂隠れに来てるんですよー?それも我愛羅様のお願いで。我愛羅様のお ね が い で!!」
「分かっている。それとも任務を早く終わらせてからがいいか?」
「人と馴れ合うのは好きじゃないって前に言いませんでしたー?」
「…確かに言われたな」
「じゃあほっといてくれませんかねー。ほら、離し…「お前は、」へ?」
「昔はもう少し人との関わりを大事にしていただろう」

やんわりとあたしの腕を掴む手に力が込められる。ちょっと痛いんですけどと反論しようとした瞬間、目を細めて悲しそうに瞳を揺らす我愛羅様が目に映った。昔って…そんな幼い頃のあたしを知らない癖に何言っちゃってんの?大体、人と関わって何がそんなに楽しいの、嬉しいの?んで、なんでそんな悲しい顔してるの。

「離してくださいよー。それに、我愛羅様はあたしの一体何を知ってるって言うんですかー?」
「…本当に覚えてないんだな」
「だから、何が!」
「孤独だった俺に、ナルトより先に手を差し伸べてくれてたのは他でもないマトイだっただろう」
「…?」

んー、何その捏造された記憶。ぜーんぜん覚えがないんですけど。まあ、我愛羅様が昔は一尾の人住力で恐れられてたってのは聞いたことありますけど…目を点にして首を傾げると、フッと頬を緩めてあたしを見下ろした。何そのドヤ顔!と言う筈であったあたしの口は、以前も見たことのある彼の表情を目に映した所でぐっと口篭る。

その、ちょっと笑う顔するのやめてくんないかなー…なんかソレ苦手なんだよね、あたし…。そしてその瞬間、ぐううーという情けない音があたしのお腹から小さく鳴り響いた。

2014.05.26

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