巫山戯たことをしやがりますね

「…何をやってるんだ?」
「もーこの子ったら照れ屋ですーぐ逃げ出すから引きずってきたのよ。ねーマトイ」
「アーウンテンテンサンクルシイハナシテ」
「我愛羅君、お久しぶりです!」
「ああ」

ほぼ棒読みで言い切ったあたしはちらりとリーさんを見ていると、何かの視線を感じて思わず肩を揺らす。その視線を辿るように恐る恐る視線を上げると、ゆっくりと立ち上がった我愛羅様があたしの目を捉えていた。なんか怖い!蛇に睨まれた蛙の如くビシッと動きを止めてしまい、それを見兼ねたテンテンさんが思いっきり我愛羅様の方へとあたしの体を突き飛ばした。

「いだっ!なにすんですか暴力反対ー!」

そのまま砂に受け止められ、反射的に思わず背中を反らせると腹部にまとわりついてくる砂。やばいすごく変な感じ…いやこれを気持ち悪いって言わないだけ勘弁して。っていうか離してください。もちろん口には出せない。どうしたものかと突き飛ばした元凶に目線を寄せると頭上から声が降ってきた。

「久しぶりだなマトイ」
「んーと言っても1週間ぶりくらいですかねー」
「何よ、なんだかんだ結構会ってるじゃない」
「不可抗力!」
「そんなに照れなくても大丈夫ですよ!」
「…任務の話をしたいんだが」
「「「あ」」」

忘れていた、とばかりにあたしを含めた3人の声が重なる。そうだよ、何故あたしがここまで来たのかって任務の為なのに、変な期待を寄せる2人と空気の読めない里のお偉い様のせいですっかり頭から消えてたよ。その前にこのお腹に巻きついた砂を取り払っていただきたいんですけど。

「マトイには事前に直接話をしたがお前達は火影から聞いているか?」
「とりあえず軽くは聞いてるわよ。砂にスパイが紛れてるんでしょ?盗賊の仲間の。まだ誰も捕まってないの?」
「ああ。大方察しはついたが結び付ける証拠がとれない」
「我愛羅様離してくださーい」
「まあ、大方察しがついててマトイがいるなら直ぐ済みそうね、こんなだけど優秀は優秀だし」
「あの…あたしの話聞いて…」
「ここは僕が盗賊を見つけ出してみせましょう!」
「あのねリー、私達はマトイの護衛で来てるの。あくまでもマトイの護衛」
「ですがテンテン、それでは僕等はなんの為に「マトイが術を使ってる時の護衛だって言ってんの!」役不足です!」
「うっさい!」
「ああ、それと、お前達には宿を取ってある。荷物はそっちに置くといい」
「やったー!野宿解放!」
「だったらまず荷物を置きたいんでー、我愛羅様砂を解いてもらっても」
「マトイはここに泊まってもらうが構わないか?」
「は?」

今なんか幻聴が聞こえたんだけど皆さん聞こえました?あれだな、我愛羅様の砂がお腹をぎりぎりと締め付けるから意識混濁してるのかもしれないなー早く現実に戻らなきゃ。べしべしと頬っぺたを2、3度叩き頭を振るとビックリマークを頭上に浮かべた目の前の2人が笑みを作ったのが見えた。ん?なんで笑顔?まさか……ひくりと口元を歪ませると同時に、テンテンさんの一際明るい声が耳についた。

「どーぞどーぞ!煮るなり焼くなり好きにしていいわよー」
「人の恋路を邪魔する奴は馬に蹴られてなんとやら、ですね!では行きましょうかテンテン」
「ちょっ、ちょっと待って待った!!本人の意思1番これ大事だと思うんですよー!大体年頃の男の子と女の子が一緒にいるのはアレって言うじゃないですかー?!」
「宿はすぐ側だ。名を言えば通してもらえるからな」
「はーい!じゃーマトイまた後でねー!」
「こらーーーー!!!!」
「お前はこっちだ」
「違う!何かの間違い!あたし起きてるよね?!」
「頭大丈夫か?」
「それより我愛羅様の頭の中が心配ですー!」

ずるずると砂に連れていかれるように向かった先は風影室の奥にある扉。こんな政略( ? )結婚なんていやだあああ!!!

「お前はこうでもしないと逃げるだろうが」
「あったりまえじゃああああ!!!」

全く思惑が読み取れない我愛羅様に大声を張り上げて抵抗するも、お腹に巻きついた砂が離してくれるわけもなく、あたしは奥の扉へと引きずりこまれていた。

2014.05.23

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