秘術 "耳鳴りの術"

「ぎいやあああああ!!!」

物凄い叫び声が響き渡るここは数々の抜忍や悪党の口を割る為の施設…というか、拷問部屋だ。昨日の我愛羅様と1日木の葉観光という謎の穏やか任務(?)から打って変わって、あたしが只今こんな所にいる理由はただ1つ。いや、現在進行形とも言うべきか。要石一族の"耳鳴りの術"を使って拷問の最中である。

「マトイ、口を割りそうか?」
「さあー?割らなかったら鼓膜終わるだけですからねぇ。痛いよー?死ぬより辛いよー?」
「ぐあああーー!!!」

首から下げた、小さく細長い黒の笛に息を通しながら、相手をじりじりと追い詰めているのは里の恐怖とも名高い森乃イビキ特上忍の顔面ではなく、あたしの笛の音だ。普段の状態でこの笛の音を聞けるような奴はいない。が、高音が耳を伝って脳天にまで良く響くような術をかければ、この笛の音は狂気と化す。

「あー、これ以上やったら多分ブチっていきますけどどーしますー?イビキ特上忍ー」
「コイツが持ち出したのは木の葉の持ち出し禁止の薬学書だ。隠した場所を言ってもらわねば困る…両耳は潰すなよ」
「あらー片耳オッケーのサインでちゃったよー。で、どうするー?本当に何も言わないつもりー?」
「あ……あれが、あれば…土影様に…腕を認めてもらえ、るんだ…!」
「それはーさっきも聞いたしー。でもー、君が隠した薬学書は木の葉の物だしー、岩と同盟国の木の葉から盗んだって知ったら土影サンも黙っちゃいないと思うよー?だから耳潰れる前に隠した場所言った方がいいよー」
「ぎゃあああ!!!!!」

鉄格子の椅子に鎖で繋がれた目の前の男は手足をバタつかせながら悲鳴を響き渡らせている。さっさと言えば楽になれるのにバカだなあ。大体この拷問が終わらないと今日あたし寝れなくなっちゃうし。黒い笛に息を吹きかけながらぼんやりと何時間寝れるのか考えていると、さっきまで煩かった男の声がぴたりと止んだ。

「…あ、片方潰しちゃったー?」
「全く…強情な奴め…マトイ、お前も拷問中に別のこと考えてるんじゃない」
「えー、潰していいんなら何考えてようが同じですよー?」
「任務中だと言ってるんだ」
「あー、ハイハーイ…とりあえず意識失っちゃったみたいなんであたしちょっと休憩してきまーす」
「すぐ戻れよ」
「なるべくー」

そのまま笛を首へと戻すと、重苦しい扉を開けてすがすがしい光の差し込む廊下へ足を運んだあたしは、腕と足をピーン!と伸ばした。なんで朝っぱらから人の悲鳴を聞かないといけないんだとは思いつつも、あの恐怖の顔面を持つイビキ特上忍には逆らえない。あたしの人生でも長い付き合いのある忍だが恐らく一生慣れることはないだろう。っていうか慣れたくもない。

「あ!いたいたー、マトイー!」
「あっれーいのさんー?」

重苦しい扉の近くで壁に寄りかかり欠伸をしていると、少し高めの声が耳についた。昔より大人のお姉さん感が増した山中いのさん。そのいのさんがばたばたと足を走らせながらこちらへ向かってきていた。嫌な予感。

「今暇?」
「や、拷問中だったんですけどー相手が意識飛んじゃったんで休憩中なんですーあはは」
「顔に似合わずエグいことしてるわねー…あ!って違うのよー、仕事の話」
「ええー…なんの仕事ですかー?」
「いつもの情報収集よ、情報収集」
「出た…」

情報収集とは第四次忍界大戦後からあたしにだけに任された特別任務である。1ヶ月に1回行っているそれは、里内に危険思想を持った者がいないかを術で確かめるという物だ。自分に耳鳴りの術をかけて1日中黙祷するというはたからみたら物凄く退屈そうな任務なのだが、火の国全域に耳をすませることになる為、チャクラの消費は激しく次の日のあたしはほぼ確実に寝込むハメになってしまうのだ。

「でもまだコッチの任務が終わってないんですよねー、明日までかかるかもしれないしー?」
「その辺はなんとかしなさいよー、とにかく情報部で待ってるからよろしくねー!」
「えっちょっ…」

最後まで言葉にする前に急いでその場から走り去って行ったいのさんに溜息が出た。あー、もーめんどくさい。術をかけてもあたしに聞こえるのは誰かが喋る声と言葉だけで、心の中まで見えはしない。まあしかし、木の葉の為なら仕方がないかと頭を掻き、さっさと終わらせてやろうと重苦しい拷問部の扉を開けた。

2014.04.09

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