狂おしい程に、

火影室から追い出され、火影邸からもとりあえず出た私はぷらぷらと歩き回っていた。綱手さんとホウライ様の話に聞き耳を立てようかとも思ったが、人の気配に物凄く敏感なホウライ様がいると、盗み聞きしているのはすぐにバレるのが関の山だ。まあそれで諦めて夜道の散歩をしているわけだけど。

「……ッ、ハヤ!!」
「え?」

突然の大声に吃驚して後ろを振り向くと、そこには必死の形相を浮かべながら慌てるネジの姿があった。…って、なんでそんな必死に何探してるんですか?そう口にしようとした瞬間に深く溜息をついたネジが、薄っすら額に滲んだ汗を掌で拭っていた。

「えっと……どうしたんですか?」
「どうしたもこうしたも…!コウが、ハヤが風に当たってくると1人外に出たと聞いて…」
「うふふ、心配してくれていたんですね。すみません」
「何もなかったか?」
「ある訳がないじゃないですか。あっても大丈夫ですよ、私そんなに弱く見えます?」
「…」
「…?」

がっくりと肩を落とし、そのまますとんと座り込んでしまったネジに首を傾げる。ど、どうしたんでしょうか?ネジが心配してくれるのは、それだけ私を思ってくれていると感じるしとても嬉しいけど、なんか過度に心配しすぎのような…同じように隣へ腰を降ろした私はネジの顔を覗き込んだ。

「えっと…一緒にお散歩、しますか?」
「…」
「ネジ?」
「…帰るぞ」
「え、え、え?」

突然掴まれた腕に背中をびくりとさせると、すくっと立ち上がったネジはすたすたと歩みを進めていく。待って待って、まだ火影室にホウライ様が…という訳にはいかず私は口をもごもごさせながら引きずられるようにその場を離れた。








「何があったか話してくれないか」

連れてこられた先は飲み会の行われている筈の宗家ではなく、分家のネジの部屋だった。実はまだ数えられる程度しか入ったことのない彼の部屋は、以前見た時と何も変わっていない。相変わらず綺麗に整えられた部屋…の畳の上に、とにかく座るように促されたので困惑しながら腰を降ろしたのはいいものの…至近距離に私の両手を握りながら視線を絡めてくるネジの姿がある。ぎゅっと力が入ったネジの指先に、彼が私の「何か」を知ったらしいことが伺えるが、それが「何か」が分からないから私には答えようもない。正直、私がネジに隠してるようなことは1つもないのだ。…訂正、今まで火影室で綱手さんと会っていたのは内緒にしているが…それが聞きたいのだろうか?

「何が、というと…私は何を話せば…?」
「…こんな夜中にお前が1人で出歩くなんてことはしないだろう。何か理由があったんじゃないのか?」
「あ…えっと、一応他言無用と言われていますので…」
「…」
「大丈夫ですよ。その…少しお話しをしてきただけですから」
「…」
「どうしたんですか、さっきから変ですよ?ネジ」
「本当にそれだけなんだな」
「はい」
「なら…いい」

はーっと深く溜息を吐いて私の肩に額を乗せたネジは、勘弁してくれ、なんて呟いている。勘弁してほしいのは私の方ですよ、苦笑いしながらそう答えるとちらりと見上げたネジと目が合った。

「…あまり心配させてくれるな」
「心配させる程のことはしていないと思いますけど」

困ったように告げればそれはそうなんだが…と釈然としない返事が返ってくる。うーん…なんというか、つ、付き合い始めたから急にこんなに心配するようになったんでしょうか?それとも嫉妬?(何に?)とにかく、ネジを安心させようと握られた手を握り返して背中をぽんぽんと叩いた。

そうして自分も落ち着いてくると共に、ふと今の状況を思い出してびたっと動きを止めた。そういえばだ。突然のことですっかり忘れていたが、この部屋、というよりこの家には今ネジと私の2人きりだ。そしてここはネジの部屋…目線だけを後ろに向けるときちんと畳んではあるが布団が一式置かれていて、光の速さでネジの手を振り払うとばたばた壁の隅っこへ引き下がった。

「おい、なんだ急、に…」

私の顔色を見たらしいネジも今の状況を理解してくれたらしい。どうしましょう私心臓が凄いことになってます!!ばくばくと今にも皮膚を突き破って出てきそうな心臓を抑える。

「「…」」

距離にして約1m、部屋の扉まで約2m。「そうだ皆の所にに戻りましょう!」なんとかそれだけ口に出すと冷や汗を浮かべたであろう笑顔で部屋の扉を指差した。が、それは聞き届けてもらえなかったらしい。あろうことか距離を詰めたネジは膝立ちで壁にとん、と手をついて上から私を見下ろしていた。さっきと逆ですねこれ、なんてどこかで考えている私は案外余裕なのかもしれない。

「…もう少しだけ、ハヤとここにいたいんだが…もちろん何もしない、約束する」
「あ…、」

ネジの甘い声に惑わされて、私の声が上擦る。こくんと小さく頷けば壁についた手が背中に回された。何もしないって…そういうのはいいんですか?なんて思ってしまっても、私の口から出ることはなかったようだ。

2014.11.06

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