過去の残骸

「実はな。…死んだと思われていたコウの里の忍がお前達以外に何名か生存していることが分かったんだ」
「…火影。それは一体どういうことですか」
「待ってくださいホウライ様!その前に…お前達以外っていうのは何なんでしょうか、封印の器っていうのは私だけではないのですか?」
「さっきも同じことを言いかけてたな。ヒアシから何も聞いていないのか?」
「私がコウの里という地の生まれであり、白虎の封印の器であること、右眼の呪印についてのことしか聞いていません。綱手さんの話し方から察するに…私と同じようにコウの里で産まれた方が何人かいらっしゃるということ、ですよね?」
「そういうことというか……まあ説明がややこしくなるからそれでいい。聞きたきゃ後で話してやるからお前は少し待ってろ」
「…分かりました」

そういうと綱手さんは私からホウライ様へと視線を戻し机に置いてあった湯呑みを掴んで口元へ運んでいた。それにしても木の葉に私と同じコウの里出身の方が他にもいらっしゃったとは……しかし、それを今すぐにでも知りたいとは思わなかった。なんとなくこの先関わるような予感がするし、だったらその時が来たら知ればいい。鋭く光らせた目を綱手さんに向けるホウライ様をちらりと伺いながら、ふう、と1つ息を吐いた。

「砂隠れの里に1人、木の葉から移住した忍がいてな。少し以前のことだが"かわせみ"と名乗るコウの里の生まれの一族と接触したと聞いている」
「ほう。ですがかわせみ一族は元来から放浪の旅をしてきた一族です。正直言わせていただきますが、彼等が生きていてもなんら不思議ではありませんよ」
「それも聞いた…でだ。1週間程前、日暮硯コトメの兄と思われる忍と謎の忍1名が木の葉の忍に奇襲をかけてきた」
「日暮硯コトメの兄、と言われましてもね…」
「日暮硯 疾玖だ。日暮硯シキミの息子だよ」
「日暮硯 疾玖…!?奴は生きているのですか!?」
「やはりお前はよく知っているようだな」
「当たり前ですよ!!そうか、疾玖の奴まだ生きていたのか…!」
「日暮硯 疾玖って…じゃあ私以外にいるコウの里出身の忍ってコトメさん、なんですか…?」
「ああ。あいつは"青龍"の封印の器だ」
「!」

ホウライ様と綱手さんが私には理解しにくい会話を広げる中、聞き覚えのある名前に反応して声を上げると綱手さんが頷いて肯定を示す。そうか、だからさっきコトメさんの話しを…しかしどうしてその兄である日暮硯 疾玖さんが生きているらしいということに、ホウライ様が過度な反応を示しているのか分からなくて小さく首を傾げると、その反応に気付いたホウライ様の視線が私の目を見上げた。

「日暮硯 疾玖という人物は"光の国"自体をよく思ってなかった忍です。彼は実力があったにも関わらず"男"というだけで期待もされずかなり蔑まれていましたからね。そうでしたか、"コトメ"というのは彼の妹の名前でしたか…」
「"男"というだけで…ですか?」

小さくそれだけ質問するが、それを最後に黙り込んでしまったホウライ様は口を閉じた。そういえば、前にそんな男だの女だのという文献を目にしたような…文献、でしたっけ…私の質問に答える気がないらしいホウライ様は視線を下に落として何かを考え混んでいるようで、私は質問をぶつけることを諦めて綱手さんへ視線を向けた。

「…ホウライ。日暮硯 疾玖が生きていたことを踏まえて私は1つ仮説を立てた」
「…」
「もう1人の謎の忍。そいつはどういうわけか生き残っているハヤ以外の白魚一族の1人で、ハヤとよく所縁のあー」
「ハヤ殿。席を外してください」

綱手さんが最後まで言葉を紡ごうとした刹那、ホウライ様がばっと顔を上げて大きな口を開く。目が少し怖い。何を言われるかと思いきや突然の強制退出発言に思わず眉間に皺が寄った。

「え?どうして…」
「これはハヤ殿が聞かなくてもいいことです」

酷く冷たい眼にごくりと喉を鳴らす。ホウライ様からここまで睨まれたことは今までにもなくて後退りすると、困惑顔を浮かべた綱手さんまでもが小さく廊下へ出るように促している。

な、んなんですか…?無言の重圧に何分も耐えることは無理そうだと小さく溜息を吐く。分かりました。それだけぼそっと告げると後ろめたさを残したまま火影室から立ち去った。








「…何故追い出した」
「聞かれたくないからに決まってるでしょう、今からする話しを」
「…」
「……火影、貴様の仮説はほぼ100%当たっているかもしれません。ハヤ殿の母親、白魚レノウはハヤ殿を産んですぐに里抜けをしています…生きていても何もおかしくありません」

2014.10.18

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