糖分が足りない、

「調子はどうですか?」
「ハヤ。もう任務は終わったのか?」
「ええ」

病室のドアを開けて小さい紙袋を傍に置くと、体を軽く動かしているネジに目を向けて笑みを浮かべる。なんだか前よりもネジの顔に覇気があるのは気のせいだろうか。というかなんか嬉しそうな…何かあったんでしょうか?と緩く首を傾げつつ紙袋に入っていた小さな花籠を取り出した。

「わざわざ買ってきたのか」
「はい、いのさんの所で。お母様しかいらっしゃらなかったんですが、ネジのことをお話したらこれがいいのではないかと」

小さな花籠には圧倒的な存在感を示すようなオレンジの大輪ガーベラと、添えられた蘭の葉。コトンとテーブルに置いてみると病室が明るくなったような気分になると同時に、自分の気もさらに明るくなる気がした。

「ふふ、明るい色を見ていると怪我も早く治る気がしませんか?」
「ああ、ありがとう」

優しく微笑んでくれるネジに思わずきゅんとしてしまい、隠すように両手で頬を包んだ。なんだか最近良いこと続きではないだろうか。最近と言っても一昨日からになるが、ヒアシ様と和解もして、すぐに日向一族とも関係がよくなった…とまではいかないが、ヒアシ様が何かを告げてくれたのか以前のような冷たい視線は感じられなくなった…多分。ヒナちゃんにも話したいことが山のようにあるんですが、とは思うが、すれ違いで会える時間もないのが悲しい所だ。

「どうした?」
「い、いいぃえ!」
「?」
「…あ、あ、何か食べたい物とかありますか?明日も少し時間がありそうですので、よければ持ってきますが…」
「いや、大丈夫だ……俺はお前が来てくれるだけで、充分満たされる」
「!」
「…さっきから表情の移り変わりが激しいぞ」
「そっ…そんなこと…!ネネネジがそういうことを面と向かって言う方だったなんて、意外で…!」
「こんなことお前と2人だけの時にしか言わない」
「っ!あ、あの、そういうことを言われるのはちょっと準備が……」
「何の準備をする気だ。いいからこっち」
「は、い?」
「触れたい」

ベッドの端に腰掛けてぽんぽんと隣を叩くネジに目を丸くさせると、1歩後退ろうとするもののやっぱり後退できるわけもなく、恐る恐る近寄った。ちょこんと少しだけ距離を置いて座ると、するりと伸びてきた手が私に触れる。

「この微妙な距離はなんだ」
「いえですからその…こういうのは慣れて、なくて…」
「慣れられていても困るんだがな」
「わっ」

ぐいっと腕を掴まれて体制を崩し視界に映った白い病院着。2回目のネジの胸の中であることを理解して思わず押し返そうとするが、さすがというかやはりというか、びくともしない。諦めてそのまま硬直していると頭を優しく撫でられた。

「…ネジばっかり余裕があってズルイです…」
「ハヤが思ってる程俺に余裕はない。安心しろ」
「説得力が全くありません…」
「少し落ち着けばすぐにでも理由は分かる」
「?」
「それよりお前、シカマルに告白されていたらしいな」
「なっ!?なんでそれ…っ!」
「風の噂だ」

まさかの言葉に私はばばっと顔を上げると、というかそんなことすっかり忘れてました!というような顔をしていたらしくネジの顔が安心したように綻んだ。風の噂って…一体どこからそんな情報が流れてくるんですかとは思ったが、残念なことに木の葉の里には噂好きな忍が多い。何人かの容疑者を思い浮かべて顰めっ面していると、悶々としだす私の脳内をぶち壊すかのようにネジの唇が私の唇に触れた。

「っ!?」
「…その反応だとしっかり断っているみたいだな」
「んなっ…当たり前です、私はそんなにちゃらんぽらんな女ではありません!」
「まあ、そんなことはよく知ってたつもりだったが…改めて安心した」
「安心したのでしたら拘束を解いていただきたいのですが…」
「今はこのままでいいだろう。誰もいない」
「そういうことでは…」

ない、と言いかけた所でまた塞がれた唇。こんなにベタベタに甘い男だったかと思いながら私はそれに応えるように目を閉じると、ネジの動悸の早さに気付いて先程の余裕がないと言っていた理由を理解した。

「あれ?サクラ先輩入らないんですか?」
「ネジさんとこは後でいい!後でいいから他行きましょ!(病院でベタベタしてんじゃないわよ!しゃーんなろー!!!)」

2014.07.17

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