男と女の噂

「おいおいあの噂聞いたか?」
「聞いた聞いた、あれだろ?」

何故かどちらも疑問系で返す会話が木の葉の門の前で聞こえる。そこにははがねコテツと神月イズモが門の警備をしながらこそこそと話しており、その様子が怪しいからか周りの一般市民は避けるように2人から視線を反らせていた。

「里1番の美人と名高いあの白魚ハヤに男が出来たってやつ」
「んぬぁああにいいぃぃ!!?」
「コテツ…お前なんの噂だと思ってたん「誰だ?!相手は誰なんだ!!?あのハヤが認めた男っつーのは!!?」分かった分かったから離れろ!最近俺とお前にホモ疑惑がかかってるんだよ!」

イズモの胸倉をこれでもかとぐいっと掴み上げたコテツの顔の近さにうえっとなりつつもなんとか遠ざけ、片腕でコテツを制してキョロキョロと周りに目線を向ける。どこの誰がこの二人にホモ疑惑をかけたのかは知らないが、プライベートまで無駄に仲のいい2人のこと、逆にホモ疑惑がかからない方がおかしいものだ(と、周りの忍の声もある)。

「俺はてっきりマトイが風影様に本気になっている噂の方かと思ったんだよ!!」
「アホか!砂に移住した時点でアイツは本気だろうが!大体それちょっと前の話しだろ!にしてもあのマトイが恋なんて時間の流れってのは人をも変えるな…」
「おい答えろイズモ!相手は誰だ!!?ハッ!!まさかガイ…さん…!?」
「大どんでん返しだよ!なんでそっちに転ぶ!?」
「あのガイさんの熱き青春パワーに押されて"カッコイイ!ガイさんってこんなに素敵だったんですね…!どうして私今まで気付かなかったのでしょうか…!"みたいなことが起こったとか…」
「ハヤはガイさんのこと凄い勢いで避けてるだろ。ガイさんも最近ハヤに全然会わなくてなって嘆いてたし」
「じゃあ誰だよ!!」
「なんでお前そんなに熱くなってんだ…お前別にハヤに好意あったわけじゃねえだろ」
「そういう情報は知っとかねえと話しに乗り遅れるんだよ!!あとハヤは可愛いからな、変な虫だったら追い払う」
「…ちょっと好意あったんだな…」
「可愛いからな」
「……」
「2人で随分賑やかですね」

うんうんと頷くコテツを見ながらまあそうだけどな、と呆れ顔を浮かべるイズモ。その2人の愉快そうな喋り声につられて来たのか、小さい紙袋片手に現れた話題のその人物を視界に入れて、イズモとコテツは「あ」と同時に声を上げた。








「あれ、今日なんかいつもより綺麗じゃないかい?ハヤちゃん」
「そうですか?いつもと何も変わりありませんが…」
「おばちゃんもハヤちゃんとは長い付き合いだからねえ、良いことでもあったかい?いいねえ、若いねえ…ふふふ」
「あ…それでは用事がありますのでこれで。林檎ありがとうございました」
「彼氏さんによろしくねえ」
「っ!」

よく食材の買い物に訪れるお店のおばさんに怪しい笑みを向けられ、言ってもいないのに彼氏がいるということを諭されていた私は思わず背中をびくっとさせた。人生の先輩は怖い、これからは何かとネタにされそうだなと溜息を吐いたが、私の頬は緩んでいる。これから家に帰るつもりだったが、おばさんのせいでなのかやっぱりネジに会いに行きたいという欲が強くなり、くるりと足を返した。

「………よ!!」
「……お前……………好意……ろ」

通りすがりに門の前を通過する直前、見知った2人の声に足を止める。何か周りはこそこそと二人を避けているが間違いなくあの2人は門の警備をしているだけのはずだ。何を話しているかは分からないがなんだか愉快に見えて思わず私は2人の側へと歩いていた。

「2人で随分賑やかですね」
「「あ」」

声をかけた瞬間、イズモさんとコテツさんが目が見開いた。え…そんなに驚きましたか?なんて苦笑いを浮かべているとコテツさんが突然私の両肩を掴んでぐらぐらと揺らした。

「ハヤ、お前男が出来たって本当か?!」
「え??」
「隠すな隠すな、専らの噂だぞ?」
「え?え??」
「その男は誰だ、中途半端な奴だったら俺が叩き直してやるぞ!!」
「…コテツさんがネジに叩き直されてしまいますよ」
「ああ、それはそうなるだろうな。…って、ネジ?!日向ネジ?!おまっ、早く言えよイズモ!!」
「言う暇もなかったがな」
「なんだよ〜ネジかよ〜…まあそうだな、お前等仲良いもんな…ネジだったらな…非の打ち所がないな…」
「…すみません、ネジとお付き合いを始めたのは一昨日からなんですけど…一体どなたからその噂を?」
「ああ、そりゃこっちに聞いてくれ…」
「テンテンとリーがこそこそ話してるのを聞いたんだ」
「地獄耳ですね」

テンテンさんとリーさんには確かに報告したが、あまり公に言わないでほしいとお願いしたのにこれだ。意味がないじゃないですか…もう色んな人に回るのは確実ですねと心の中で溜息を吐くと、何故か凹むコテツさんとそれを宥めるようなイズモさんを置いて木の葉病院へと向かった。

2014.07.09

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