全ては貴方の優しい気持ちだった

「…白魚一族は神獣の1つ"白虎"を護る役割を担っている。そしてその中で今生きている一族はお前だけ…ハヤ、お前は白虎の"封印の器"なんだ。そして癒無眼の開眼した右眼に封印した理由は、白虎がその力を上手くコントロールしてくれるからだ」
「その白虎という獣…が、コントロールを…?」
「白虎は昔から一族と歩んできたと言われている。だからこそその眼のことも知り尽くしているんだろう」
「ヒアシ様…まさか私に癒無眼を使わせていた理由って…」
「白虎がコントロールをしていたからこそお前は正確な眼の扱い方を独自で学んだはずだ」
「………私の、為だったのですか……?」
「…日向の者には…お前とあまり深く関わらないように釘を刺していた。ヒナタとネジは私の話に瓦解せずだったが……関われば見えなくていいことも見える、それが思わぬ所へ漏れてしまう心配もあった。私もそうだが…皆、ハヤがここにいるのを嫌だと思っているわけではない。随分長い間、勘違いさせてしまったな…」

悲しそうに目を細めるヒアシ様に私は嘘でしょう?と声に出さずに口を動かした。今更そんなこと言われたって、じゃあ、今まで私が日向一族に対して思っていたことは…?

もう、ヒアシ様が嘘を言っているようには見えなかった。迷わず私に頭を下げている姿を疑うなんて…すっと、何か胸の痞えが少しずつ溶けていくのが分かる。いつの間にか頬を少し緩めていたらしい私を見てヒアシ様はまた口を開いた。

「…ハヤはここが好きか」
「え?」
「お前ももう成長した。だから真実を述べようと思ったのも事実…ハヤが望むのであればここを出ても構わない」
「そ、れは…」
「…それと、ネジとのことなら私は何も口出しをする気はない」
「!」

フ、と口元に弧を描いたヒアシ様に目を見開くとばっと口元を片手で覆った。なんで、それ…!?いつから気付いていたんだと口をぱくぱくさせていると、ヒアシ様が少し低い声をで笑い声を上げた。

「はは…分かり易い…」
「で、ど、どうして、というか…私は日向一族ではありませんし、そんな、私はネジのことなんて、なんて…」
「呪縛を感じる必要等ない…お前も自由に生きなさい」
「自由…?」
「これからは私もお前の力になる」

思いがけないヒアシ様の言葉に息を飲む。居心地の悪かった日向宗家。優しく笑いかけてくれるヒアシ様に涙腺が緩み、ささっと俯いた。私の眼は日向の呪印ではなく、日向に護られていた‥封印術をただ隠す為の…、その為に。

‥ネジ、傷付けてしまったでしょうか‥?思わぬ真実を知ってすぐに会いたい、なんて頭に浮かぶネジの顔。自分勝手というのは承知の上。誤解を解いて謝って、そして私もネジと同じ思いがあるんだって伝えたい。ぎゅっと拳を握りしめるとばばっとその場から立ち上がった。

「どうした?」
「私、ネジの所へ行ってきます」
「…そうか。ネジにも真実を話しておくといい」
「それは……」
「ネジは…お前のことなら何があっても受け入れられる。そういう男だ」
「…?」
「行きなさい」

柔らかく笑みを零したヒアシ様に戸惑いながら頷き部屋から出ると、私は言っていた言葉の意味を考えながら木の葉病院へと急いだ。








「どうしたのよ、元気ないわね」
「…そうか?」
「まさかリーがいないから寂しいとか?」
「それはない」

ハヤが飛び出して翌日の夕方、珍しくテンテンが1人で病室に訪れていた。元気がない理由、そんなことが分からない程俺は鈍くない。が、テンテンに事の顛末を話せば面白そうに話題に食いつくことくらい目に見えていた。だからこそ俺は口を噤んでいる。

「日向の……日向一族の天才である貴方が一体、何を言ってるか…分かっているんですか…?」
「何故日向の名が関係あるんだ。俺は1人の男として、お前が好きだと」
「やめてください!!!」

あいつは…日向の名を持つ俺では嫌だと言うのか…。確かに一族の中にいるハヤは酷く孤独だ。ヒナタ様が近い場所にいるとはいえ、あの家で皆に心を開くこと等無理なことだろう。分かっていたはずだったのに、俺は…

「泣き顔を見て、変に焦ったのかもしれんな…」
「なにぶつぶつ言ってんの?」
「気にするな」
「気にするってば。もう…変なネジ〜」

どうやら同じ班のテンテンには俺がいつもと違うということは分かっているらしい。それがハヤ絡みではないかと言うことも。ニヤつく顔を見て俺はテンテンから渡されたコップの中の水を一気に飲み干した。

2014.06.11

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