兎のお面

ざくざくと足を進めて数時間程がたった頃、森の奥に休憩に適した暖かい場所を見つけた私達は切株や大きな岩の上に腰を降ろしていた。

「アンタも疲れただろ、この水美味いから飲めよ」
「私の分はありますので王子様はお気になさらず」
「そんな庶民の水は飲み物じゃねえだろ」
「私は庶民ですので」

キラキラとした高そうな水筒を向けている王子様は、ムカつく言葉を吐きながら何故か私の隣に腰掛けている。全くどこにお金をかけているのか、そんな水筒持ち歩いてるなんて…高価そうな物持って狙われないわけないのに馬鹿じゃないんですか。溜息をつきながら目の前に座り込むカカシさんに目を向けると、苦笑いしながら小さい水筒に口をつけていた。何に疲れ切ってるのかコトメさんはぐったりとしていて、ナルトさんと言えばおにぎりを口に放り込んでいる。ちらりと周りを伺うナルトさんは何者かに囲まれていることに気付いているようだ。コトメさんは気にすることなく警戒を解いているが…

さすがにカカシさんもこの気配に気付いていますよね?先程からのほほんとした空気を纏うカカシさんを見ながら思う。千の術をその目にコピーし幾多の死線を超えてきた忍の1人、はたけカカシと言えばどこの里でも有名だ。だからこそのこの余裕なのか、それとも油断しすぎなのか…

「…この調子だと夕方には向こうに着きそうだな」
「な、なんにもなさそうでよかったぁ…」
「油断はするなよ」
「いやぁ、分かってはいるんですけどやっぱり何もないに越したことはないじゃないですか」
「まだまだ甘いねぇ…」

カカシさんの言葉に反応するようにほっと息をつくコトメさんに、苦笑いを返すカカシさん。中忍だというのにちょっとした危機感にも気付けないのか…敵は出てくる機会を伺っているようで、じりじりと距離を縮めているのを感じる。

「なぁなぁカカシ先生、我愛羅にも会えっかなぁ?」
「さぁーね。我愛羅君はナルトと違って毎日忙しいし、ま、カンクロウ達にでも会って聞いてみたら?」
「一言余計だってばよ」
「風影様を名前で呼ぶなんてさすがナルトだね」
「俺にとっちゃ我愛羅は友達だかんな!」

ナルトさんが声を上げたその瞬間、微かな声が聞こえると同時に、背中に背負った弓を手にかけ立ち上がった。真上の木に鋭い視線を向けると、黒い影が視界をよぎる。‥動くか。

ぱっとカカシさんを見れば私を見ながら晒された目を弓なりにしていて。この人気付いていながら何にもしなかったのか…仕事増やさないで下さいよと、私がそう言いたげなのを分かっているようだった。

「…さっすがハヤちゃん」
「気付いていたのならもっと警戒してください」
「ん?いやぁ、まだ出てこなさそうだったからさ。とりあえずそっちはお願いしていーい?ナルトとコトメちゃんは王子様お願いね」
「え、え、え?!」
「任せろってばよ!!!」
「チッ!」

木の上から飛び出してくる忍達の姿を視界に入れると、カカシさんは複数で攻めてくる忍達相手に向かって走り出していた。もちろん私も5名程の忍を目の前にしている所だ。コトメさんはもちろんたった今気付いたようで、焦ったように私達の顔を見比べている。

「あいつの身包みを奪え!!」
「やーっぱ金品狙いか。抜忍も金がないとやってけないもんねぇ」
「そこをどけお前!邪魔だ!!」
「任務ですから嫌です」
「ハヤちゃーん任務じゃなくてもちゃんと護ってね」
「無駄口叩くより息の根を止めてくださいな」
「いや息の根止めちゃだめだからね。捕縛して尋問だからね」

キン、カン、という金属の響く中で淡々と会話を繋ぐ。王子様は影分身のナルトさんが上手く守ってくれているらしい。ナルトさんやコトメさんの背後に近付く奴等に向かってチャクラを手に込め、弓と絡めると深く引いて弾く。何故か私を見たまま動きを止める忍は、そのまま矢の餌食になった。

「隼(はやぶさ)」
「ぐあぁッ!!」

"五月雨"とは比べられない速さで飛んでいくチャクラを纏った空気の矢は、体を貫いてなおその後ろにいる忍の体まで貫く。ばたばたと忍達が倒れていく中別の気配を感じてコトメさんの後ろに目を向けると、見事に敵の手に捕まっていた。

嘘でしょう、あの子…!首にびたりと突きつけられているクナイを見て私はそのクナイを持つ手に狙いを定めるも、微かに震えているコトメさんの手がブレて邪魔をする為に射てず、目を顰めた。

「ひ、」
「へぇ、なんにもできねぇチビがいるな。お前、本当に忍か?」
「コトメ!!」
「そこの王子!!コイツを切り刻まれたくなかったらこっちへ来い!!」

顔を真っ青にするコトメさんに慌ててナルト君が走って行くと、同時にまた別の気配がコトメさんに近付いてきたのに気付いた。里を出てからずっと追ってきてた気配…?一体どうなってるんだ。援護に回ろうとチャクラを練ったその瞬間カカシさんの声が響く。

「ナルト!そっちは大丈夫だから王子様の所に戻れ!」
「何言ってんだってばよ!!このままじゃコトメが」
「こっちに来ねぇならこのまま殺す!」

ググッと力がかかったクナイに目を見開くと、私は舌打ちしながら弓を背中に戻し、右目の前で印を組んだ。人前ではあまり使いたくない術だったけどしょうがない。最後の印を組もうと手を動かした瞬間、コトメさんの後ろ側から出てきた人物に手を止めた。木の葉の暗部装束。何故こんな所に…兎の面をしたその人は、一瞬にして敵の急所を貫いていた。

「ぐァッ……!!」
「もう1人いるの、気付いた方がいいですよ」

冷ややかな声が響く。つけてきてたのは1人の暗部だった。敵じゃなかったことにほっとはするものの、なんでたかだか王子様の護衛任務を監視するようにつけていたのだろうかと疑問が浮かんだ。

「ひ…!!?」
「ゲ、あん時の…!!」
「…余所見してたら今度こそ殺られますよ」
「追ってきてたのね、トモリ」
「戦闘に出る予定はなかったんですけどね。誰かさんが無言の命令をするもので」

カカシさんの知ってる人、なのか。トモリと呼ばれたその人は、手を下すことなく敵の忍を倒していく。今まで見てきた暗部とは実力の差が歴然としすぎていて、背中がぞくりと冷えた気がしたが、そんなことに気を取られている暇はない。とにかく残った忍を片付ける為に、私は組んでいた印を解くと、改めて背中の弓に手をかけた。

2014.03.20

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