もしかしたら任務より過酷?

「お怪我はありませんか?」
「…白魚、上忍…アンタ強いな」
「大丈夫そうですね」

周りには倒された忍達が意識を失っている。王子様の言葉に応答しながら、カカシさんやナルトさんが倒した敵を紐で締め上げていくのを視界に入れた後、コトメさんの近くに居た暗部に鋭い目を向けた。‥今回の任務、ただの護衛任務…というわけではない気がする。手に持っていた弓を背中にかけると口を開く。酷く冷静なその暗部の右肩が少しだけ上下していた。

「つけられているとは思っていましたが…まさか暗部だったとは思いませんでした。これはただの護衛任務でしょう?」
「答える義務はありません。理由を知りたければ里に戻って5代目から直接伺ってください。では私はこれで」
「行くぞーお前らー」

シュン、と一瞬で消えた暗部の姿に眉間の皺を寄せる。抜忍達を1人残らず捕縛し口寄せで忍犬達を呼び出した後、その抜忍達を預け何事もなかったように風の国へと歩き出すカカシさんに、もしかして何か知ってるんじゃないかと疑問を浮かべると、ちらりとナルトさんに目を向けた。

「すみません、王子様をお願いしてよろしいですか?」
「ん?どーしたんだってばよ」
「少しカカシさんとお話ししてきます」

そう言って王子様をナルトさんに任せると、前を歩くカカシさんを早足で追いかけた。

「カカシさん」
「んー?何、どしたの?」
「何故暗部がこんな所にいたんですか?あの方ずっとつけていたようですし、通りすがり…ではありませんでしたよ」
「あー…さすがだねえ」
「この任務は護衛任務ではなかったんですか?」

疑問をぶつけながらカカシさんの隣をさくさく歩いていくと、んー、と言いながら眉尻を下げつつ腕組むカカシさんが目に入る。なんかあるわけですね。そう確信した瞬間、小さな声で私に告げた。

「あの王子様には申し訳ないんだけどネ、今回は王子様を使って抜忍を捕縛する任務も兼ねてたんだよ」
「王子様を、ですか?」
「そ。抜忍ってのは金にも困ってるからねえ、だからあーんな高価な服きた王子様なんていいエサでしょ?多分トモリ…あの暗部は抜忍を確実に捕まえる一手として俺らをつけてたんじゃない?」
「そういうことでしたか…それなら納得です」
「それにしても、暗部にも気付いてたんだ」
「暗部だとは思っていなかったですが」

納得のいった説明に頷くと先程の暗部を思い出す。身のこなしや戦闘スキルもレベルが高く、怖いくらい冷静だった。そう言えばカカシさんも暗部の経験があると聞いたことがある。どんな修業を重ねてきたんだろうと考えていると、後ろで少し揉めるような声が聞こえてきた。

「コトメは弱くねーよ」
「はあ?さっきの見てもか?」
「初めて突然戦いに巻き込まれて怖くねーやつなんていねえし、目の前で倒れた奴見て慌てねぇやつだっていねーよ。コトメはちゃんと動いてた。それだけでも充分なんだ。忍の"し"の字も知らねえどこぞの国の王子様が適当なこと言うんじゃねーってばよ」
「なんだと!!」
「ちょ、ちょっと!」
「はいはいはーい、喧嘩しなーいの」

王子様が掴みかかろうとした所で隣で歩いていたカカシさんが止めに入る。もう、喧嘩なんて体力の無駄なのに…呆れたように溜息を吐くと、コトメさんが悲しそうに俯いていた。大方さっきのコトメさんの姿を見て王子様が暴言でも吐いたんでしょう…でもそれは仕方のないことですね。本当に弱かったんですから。気にすることなく後ろの4名を残して歩き出すとカカシさんと何故か王子様が駆けてきた。

「えーっと…王子様ハヤちゃんの隣がいいってさ」
「それにしてもすごいな白魚上忍は。戦いの中でも美しかったぜ」
「……それはどうも」

この人いい加減うっとおしい。意気揚々と隣を歩き出す王子様の姿を視界に入れて、面倒臭そうな状況に私はぴくりと片眉を動かすと、カカシさんが気まずそうに頭を掻いていた。








「腹減ったなあー」
「何か食べられますか?」
「俺はお前に言ってねーっての!」
「あ、そうでしたか……すみませ」
「白魚上忍、美味しい飯でも食いにいかねえ?高級食材もそろってて、シェフの腕もかなりのモンなんだ」
「すみません。私、高級食材には全く興味がありませんので別のお方をお誘い下さいな」
「だったら、フッツーの美味い定食屋もあるぜ!」
「普通なのか美味しいのか分かりませんね。大丈夫です、私のこと等気になさらずに。間に合っておりますので」

カカシさんの言葉に食い気味で私に声をかける王子様は、風の国についてもずっとこの調子だ。カカシさん、もうその写輪眼で幻術でもかけておいてもらいたいです、むしろ万華鏡写輪眼で。しかし助けを求めてみても助ける気はないらしい。この王子様本当にうっとおしい…これがウザいということですねと、私はわざとらしくにこりと笑った。

「テマリじゃねぇかってばよ!久しぶりだなー!」

げんなりしていた所にナルトさんの声が響いて顔を上げる。もう風影室の近くまで来ていたようで、目の前にいるのは大きな扇子を背中に背負った金髪の女性と、その再会を喜ぶようなナルトさんの姿。そういえば風影様にはお姉さんがいるとヒナちゃんやネジに聞いたことがある。…似てないけどこの人なんだろうかと考えていると、カカシさんが「あ」と言いながら私とコトメさんを指差した。

「今回護衛についている上忍の白魚ハヤと、中忍の日暮硯コトメだ。2人共、この人は風影様のお姉さんに当たる方で、テマリさん」
「初めまして。白魚ハヤです」
「日暮硯コトメです!」
「こちらこそ。…へぇ、お前か。噂の"五月雨"ってのは。こっちでもよく名前を聞くぞ」
「尾鰭が付いていないといいのですがね」
「……食えない奴だな。まぁ確かに、周りがそう噂するだけはある」

例の噂…?よくわからないが"五月雨"のことだろうか。まあとくに気にしなくてもいいかと笑みを浮かべていると、テマリさんが王子様を応接間へ促した。

「王子、もう少しで迎えが来ますのでどうぞ隣の部屋へ」
「いや、俺も一緒に風影室に行く」
「「「「「はい?」」」」」

何故か風影室へ行くと言う王子様に変な声が出る。私は早く貴方と別れたいのですが…我儘な王子様を視界から外すと、テマリさんが困惑したように言葉を続けた。

「王子、貴方が風影様を苦手だと仰ってたから部屋を別に設けたのですよ」
「気が変わったんだよ。白魚上忍と一緒なら別にいい」
「別にいいって…」

私はよくないですけど‥。そんな願いも叶わず、テマリさんは大きく溜息を付くとまあいいやと風影室への扉を叩いていた。

「我愛羅、護衛の者が到着したぞ」
「…どうぞ」

結局王子様から離れることもできずに私は最悪だとばかりに肩を落としていると、ドアを開けた先に2人の人物が目に入った。

2014.03.21

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