偽るのは苦しいけれど

「ヒナタ様がナルトとデート?!」
「そうなんです!あの奥手のヒナちゃんが…!ナルトさんのことを話してるヒナちゃん、昇天しそうな程可愛かったですよ!ふふっ」

ビシリと固まったネジを見て面白おかしく笑いながら、私は椅子に座ったままベッドの脇に肘をついた。「ああぁあ…」なんて情けない声を出しながらヒナちゃんを心配する様はまるで本当の兄のようで。項垂れたネジを見てまた笑みを零した。

「ふふっ、ネジはいつからそんなにシスコンになったんですか?」
「シスコンとは失礼だぞ。ヒナタ様は大事な俺の従兄妹なんだからな」
「それをシスコンと言うのですよ」
「お前は俺以上だろうが」
「当たり前です。私はヒナちゃんが大好きだと公言していますので問題ありませんもの。女同士ですし」
「はあ……分かってはいたが…ナルトか…」

もちろんヒナちゃんが昔からナルトさん一筋なのはネジもよく知っていた。ナルトさんは強い忍であり次期火影候補であり、木の葉の英雄と言われている。ネジも昔ナルトさんと中忍試験で戦ったことがあるが、当時から日向の天才と呼ばれていたネジがナルトさんに敗北した時は正直驚いた(当時はネジ負けてざまあみなさいという気持ちだったのは内緒)。いい人なのはよく知ってるし、真っ直ぐで嘘のない瞳を持つ"4代目火影"の1人息子。ここまで揃ってルックスもまあまあときたら、本当は一族総出でも喜ぶべきなんだろうけど…ヒナちゃんは私とネジの大事な人なのだ。おいそれと他人の男なんかに渡したくはないのが本音である。

「その日は病室を抜け出すしかないな…」
「過保護ですね」
「煩いぞ」

むっとしながら腕組んだネジはそう言うなり私の目を真っ直ぐに見やって口を閉じた。いつもとなんら変わらない調子で会話してたと思いますが、何か気に触ったんでしょうか…?緩く首を傾げると1つ咳払いをしたネジが、決心したように口を開いた。

「その……お前は、どうなんだ?」
「私ですか?」
「異性からよく告げられているだろう、好きだと…誰かと付き合ったりだとかは…」
「私は現状満足ですから、殿方は結構です」
「好きな奴とかはいない、と言うことか?」
「ネジの想像にお任せします」
「あのな…」

じとっと私を見る目が変わったのに気付きふわっと笑みを返すと、溜息をついたネジがベッドに肘をつく私の手にゆっくりと伸びる。触れる、と思った瞬間に病室の扉が開かれてネジの手が即座に引っ込んだ。振り向くと看護婦さんがこちらに笑顔を向けていて、その上にある時計を目にした瞬間に私は徐に立ち上がった。

「すみません、もう面会時間は過ぎていたのですね!」
「大丈夫ですよ。でももう帰らないと婦長さんに怒られちゃうのでそろそろ退室お願いしますね」
「はい。それではネジ、また会いにきますね。今日はこの辺で失礼します」
「……ああ」

看護婦さんと一緒に廊下へ出る際にちらりと後ろを盗み見れば、少しだけ寂しそうに私の背中を見つめるネジの姿が映った。

あと少しでネジが私に触れる所だったのに…でもどうして突然…?電気がほとんど消えた廊下を静かに歩きながら少しだけ熱を持った頬を冷ますように手を当てた。








「アカデミーの1日教師ですか?」
「ああ。と言っても教師補佐だがな。担当の先生の手伝いをしてくれればいい」

翌日、上忍待機室で文字通り待機をしていた私は綱手さんに呼ばれて火影室に訪れていた。右腕のシズネさんに軽く挨拶を返した所で綱手さんの口が開く。アカデミーの教師補佐って…普通の任務より大変な気がするんですけど…

「どなたの補佐をすればいいのでしょうか」
「うみのイルカだよ。アカデミー時代は担当教員だったんだろ?」
「イルカ先生?懐かしいですね…それにしても試験でもあるんですか?私を駆り出すなんて」
「そんな所だ。今日は下忍選抜の仮試験なんだよ」
「あら、もうそんな時期でしたか…」
「本試験はもう少し先だがな」
「分かりました。ではアカデミーに行って参ります」
「頼むぞ」

私はそのまま瞬身の術を使い火影室から立ち去った。アカデミーか…懐かしいな…着いた先、職員室の前では仮試験の準備でなのか色んな人がバタバタとしている。その中の1人が私に気付き、駆け寄ってきた所で気を引き締めた。

2014.03.10

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